真田ピロシキ

薬の神じゃない!の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

薬の神じゃない!(2018年製作の映画)
3.8
中国で異例の大ヒットを記録したらしい中国版『ダラス・バイヤーズクラブ』。『ダラス・バイヤーズクラブ』と違って本作は主人公のチョンが患者ではなく、法的にグレーを攻めているのでもなくて完全に黒と認定されているために逃げのスタイルと似ているようでかなり趣は異なっている。金に困ったチョンが密輸を依頼されたインドのジェネリック白血病治療薬を正規のスイス製に比べると圧倒的な低価格で提供して仲間との信頼も深めていくのだけれど、自身が患者でない以上、摘発の危機が目前に迫って手を引こうとするのはやはりやむを得ないと思う。自分の身一つならば自己犠牲精神があれば出来るだろうが要介護の父親と8歳の息子がいる訳だし。その後再開できたのは息子は別れた妻の元に送り出す姿が描かれていたが、描かれていない父親はその間に亡くなっていたのかもしれず、父親の事では違法行為に手を染めざるを得ない程の高額医療費を要求されていたので、映画の最後で語られたその後の中国医療改革の話と繋がりが感じられる。

チョンから一旦手を引かせるのはこっちは正真正銘のニセ薬を売っていたチャン(自称)博士だが、チャンがチョンを認識したのは信徒にニセ薬の被害者が出た仲間のリウ牧師が販売会場で独断行動して他の仲間もそれに加わったからなので自分達の首を絞めたに等しいのだけれど、解散の場でチャンに脅されている事を口に出さない所にチョンの人間性が見て取れる。良い仲になりかけたスーフェイとも子供を見たらヤらずまた息子への態度からも分かるように良い親としての顔が強調されている。再開するのは無理矢理引き継いだチャンが高額をふっかけた挙げ句に逃げて患者の悲痛な様子を目の当たりにするからだけど、先述した描写があるのでチョンは『ダラス・バイヤーズクラブ』のロンと違って自己中のクソ野郎が改心する話ではなくそこがドラマとしてはやや弱いか。

ボッタクリのチャンであるが、それでも引き継いでいる時はれっきとした薬を正規よりは安く売っている訳で、あらゆる手で有効な薬をニセ薬認定して潰そうとする大手製薬会社に比べるとまだマシという。警察の捜査会議にまで出席して口を挟んでくる製薬会社の奴は本作の悪役を極める。それで共産党批判など出来ない中国であるけれど、この描写にはせめてもの権力批判を込められててそれが多くの中国人の琴線に触れたんじゃないかもと思った。ただそれにしてももう少し裁判で闘うシーンを入れるなりして欲しかった所。ヒューマンな泣かせに向かったのはそれじゃ消費されて終わりじゃない?と思ってしまう訳なのですよ。

「俺が捕まったらお前も終わりだ」と言って逃走中の金を無心してたチャンだが捕まったら減刑をチラつかされているのに黙秘してる義理堅さは謎。チャンの行動として辻褄が合わない。アイツなりに少しは患者の事を考えてたなんてあるはずが無いし、何だろう警察の言う通りにはなってやらんぞという製作者の反権力精神がここにも現れたとか?よく分からない。チョンの別れた妻の弟ツァオが担当刑事なのも、気付いたり疑ったりして葛藤するような事もなくてあまり面白さには繋がってなかったように感じた。刑事の役は必要だからそこに主人公と多少絡められるだけの肉付けをしたって感じですかね。

演出面ではところどころアクションに気合が入ってて韓国映画かと思う。飛び蹴りがお気に入りの模様。インドと中国を跨ぐ密輸シーンのリズミカルさも小気味よく、薬を必要とする患者多数の写真も良かった。少し泣かせに入ったとは言っても病気ものの割にそれは抑えめで、なかなか笑えるやり取りも多くて楽しめる映画です。