しゅんまつもと

蜜蜂と遠雷のしゅんまつもとのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
4.2
例えばふと見上げた月が綺麗だったとき、「綺麗だ」と言葉にしたりスマートフォンの写真に収めるだけではどうにも我慢できなくてその感情を音にしたり、絵にしたり、詩に出来る人がいる。それは日常の様々なところに潜んでいる。窓から差し込む朝日や、電車の窓を通り抜ける街並みや、誰かとの手の重なり。そして屋根から落ちる雨の滴や海の向こうで鳴る雷。「世界」は見えない音で溢れている。

この映画は対面と並立の繰り返しによって「世界」へあらゆるものを解放していく。鏡の中の自分と対面する亜夜から始まり、演奏シーンは常にピアノとの対面。それが中盤の塵と亜夜の連弾シーン、終盤のマサルと亜夜の二重奏のシーンと並立構造が随所に織り込まれることで物語は解放へと進んでいく。
空間づくりも同様で、やけに暗いエレベーター内や練習室という密室から、ホールの開けた空間や海に物理的に空気が解放されていくのがとても気持ちが良い。音楽もそれに共鳴している。
とくに唸ったのがマサルがランニングをするシーン。言ってしまえばマサルが走っているだけなのに、その画面構成が全カット美しい。全編にわたってシンメトリーや螺旋など構造的な美しさを捉えるのが抜群に上手い。

役者陣も主役の4人から端役まで全員素晴らしい。松坂桃李のインタビューシーンの目線は一級品だし、特にいい味出してたのが調律師コンビ。