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ちいさな独裁者のblacknessfallのレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
4.0
ドイツの敗戦が濃厚になった1945年4月。脱走兵として憲兵隊に追われていたヘロルト空軍上等兵は泥濘にはまり捨てられていた車から空軍大尉の制服一色を発見、それを身につける。
偶然通りかかった遊兵フライタークは彼を本物の大尉と思い込みヘロルトの指揮下に入れてくれと申し出る。

これを機にヘロルトは大尉に成り済ますことを決意、道中同じように彼を大尉と思う部隊からはぐれた兵隊達を従え、ドイツ軍の犯罪者収容所に辿り着く。

道中の大尉演技がバレないことですっかり自信をつけたヘロルトは自分はヒトラーから特命と権限を託されてると偽り、収容所で地位を築き、彼に心酔する国民突撃隊隊長の要請を受け、即決裁判を開廷し犯罪者として収容されてる軍人を大量処刑する。明らかな越権行為であり軍規違反だがヒトラーの全権委任で収容所の上層部も丸め込まれる形になった。
しかも権力に酔いしれたヘロルトの凶行はこれだけで終らない…

いやぁ、ビビったよ。嘘が止まらない上に全然バレないんだから、、笑
何回もあぶない場面があるんだけど、その都度ヘロルトは切り抜ける。元々の資質として弁舌が巧みなのもあったと思う。
しかし、こんな大それた嘘だし何も考えず行き当たりばったりだから、最初はオロったり、顔をひきつらせたり、声が上ずったりしてる笑 この最初期はバレてもおかしくないぐらいの不自然さはあるんだけど、そこは制服の力なのか?みんなあっさり信じちゃうんだよな。
そして、収容所に君臨する頃は自信満々で、てか、自分の嘘に自分も騙されてるかのように実に大尉らしく傲慢に振る舞うから、"ヒトラーの全然委任"なんてゴリ押しも通ってしまう、、
敗戦間近の混乱期だからヒトラーに直接確認なんか取れなかったんだろうね、悪運が強いんだよな、ヘロルト。

処刑された犯罪者って大半がロヘルトと同じ脱走兵なんだよ。後はせいぜい仲間の死体から食べ物盗んだりとか死刑に価するような極悪人なんかほとんどいない。それに運が悪ければ自分も同じ身の上になってたかも知れない人達を「ドイツの恥だ」「社会の敵」だと冷たく糾弾して迷いなく処刑に踏み切るロヘルトは冷酷な独裁者そのものだった、、

人間とはいとも簡単に思考停止してしまう生き物なんだと思った。
ヘロルトは大尉の制服着てそれらしく振る舞っただけでこんな大凶行を起こした。

何故止められなかったのか??

相手の地位が上、さらに上から全権委任されてる、逆らったら自分に禍が、明らかな違反だが自分が責任を取るわけじゃないし、とか同調圧力と保身が結託した時に人は自身の思考と心を捨て去りロボットになる、それも比較的あっさり、、これは戦争みたいな極限的な場面じゃなくても頻発に起こってることだけに身がしまる思いがした。

そして、強大な権力を手にした時、その力の行使に酔いしれて暴走するのもヘロルトだけの話じゃない。こっちも我々全員の病理を象徴してるんだよ!

我々は脆く付和雷同する半面、どこまでも残酷に傲慢にもなる危険な生き物。地位や立場に惑わされない自我を持たないとあっという間に堕落する。
そんな圧倒的に正しく恐ろしい真理を淡々と画いた戦慄すべき良作!

戦慄はそれで終わらず、エンドロールにテロップが
"ヴィリー・ヘロルトはイギリス海軍に捕まり過去の犯罪が露見し、色々嘘をついて罪を逃れようとしたが、1946年仲間6人と共に死刑になった。ヘロルトは21歳だった。"

えええーー!これ実話だったのかよΣ(Д゚;/)/
人がいかに権威や肩書きに弱いかと言うことを表現するために寓話的な話を創作したと思って見てたから、たまげたよ😵
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