回想シーンでご飯3杯いける

ちいさな独裁者の回想シーンでご飯3杯いけるのレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
2.2
舞台はナチス時代のドイツ。若い脱走兵が、たまたま拾った士官服を着る事で周囲を騙して支配下に置き、他の脱走兵や犯罪者を虐殺していく様子を描いた作品。

人間は身にまとう服だけで支配する側、される側に分断されてしまうのか?という社会学的実験作であり、同じ傾向の作品として、歴史上の独裁者が現代に蘇ったら?を描いた「帰ってきたヒトラー」があるわけだが、少し厄介なのがこの「ちいさな独裁者」は実話ベースであるという事。「帰ってきた~」は完全なフィクションであるからこそ取り入れられる突飛な設定やリアクションに面白みがあり、前半部分はかなり笑える作品であった。そして笑えた前半から、笑えない後半への構成が、僕達に反ナチスのメッセージを伝えたのだと思う。これに対し、この「ちいさな独裁者」は大尉に成りすました主人公が、冷酷に人を殺していく、更には「殺させる」様子を延々と描いており、批判性やユーモアが入ってこない。

また、ナチスを題材にしつつ、ユダヤ人が出て来ないのも特徴で、描かれているのは同じドイツ人が職業や犯した罪によって無慈悲に殺される光景ばかり。うーん、これって、今までに作られたナチス物の映画とは、実は根本的に趣旨の異なる作品なのではないか? 今でもドイツにはナチスを支持する層が一定数存在する事実を踏まえると、この作品もガチでナチス肯定作品なのではと思えてくる。

以前に他の作品のレビューで描いたけど、ナチスやヒトラーのフレーズはなまじ有名なので、安直にテーマに取り入れられる場合が少なくない。本作も邦題で付け加えられた「ちいさな」のフレーズに無防備さが感じられ、ちょっと危なっかしい立場に置かれた作品である事を余計に際立たせているように感じる。無条件で高評価を出すにはやや危うい作品だと思う。