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ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のn0701のネタバレレビュー・内容・結末

4.2

このレビューはネタバレを含みます

知人から「途中で犯人が分かるからあんまり面白くなかった」と言われて紹介されたこの映画の評価がそれなりに高いことに興味を持った。

そして半分まで見て確信した。これは名作だなと。なぜなら「犯人が分かる」のではなく、医療事故から本人が自殺したということが明確になっただけだからだ。

そこから物語の真相にどのように繋がっていくのか。そもそも、真相なんてあるのか。これが名探偵の男がいう「ドーナッツ」のようにポッカリと空いた穴だった。この物語は真ん中の欠けたギャグ物語なのではないか?

物語は後半に差し掛かり遺言書の開封という大きなターニングポイントを迎える。それは同時に、亡くなった男の何人かの子どもたちと孫たちの人生のターニングポイントでもあった。

老人は、作家で6000万ドルもの大金と資産、著作権を有していた。そのすべてを看護師であり、身内でさえない女に贈与する。

物語として面白かったのは、老人の自殺後、子どもたちのそれぞれが老人とトラブルを抱えており、あたかも殺人の動機があるかのように見えたところだ。ただ一人を除いて、そのトラブルは殺人をするに相応しいようにも見える。

そのただ一人の男が、真犯人の老人の孫であった。厳密に言うと、この真犯人は老人の殺害を直接的にしていたわけではない。間接的であり、なおかつ、それにより老人は死んでさえいなかった。彼が犯した犯罪は老人の死以降のことだ。

真犯人の男は、看護師が老人の全財産を贈与されることを知り、遺言書の無効のため看護師が殺人事件を起こすよう企む。具体的には鎮痛剤とモルヒネの中身を入れ替え、致死量のモルヒネを投与させることだった。

だが、看護師は実のところその瓶の触感、液体の質感、それらによりラベルを見ずともどちらがモルヒネで、どちらが鎮痛剤か分かっていた。そのため、中身を入れ替えられても、そもそも中身を見ていないため、奇跡的に規定通りの投与量を与えていたのだった。

しかも、真犯人の男が万一誤ってモルヒネを大量に与えた場合に解毒させるために投与する薬を盗み出したことで、さらに奇跡的に無用な薬物の投与をせずに済んだのであった。

真犯人の男は、老人の葬儀の最中、家中が空になった後に何食わぬ顔で薬物を返品しに向かい、そこで偶然居合わせた掃除婦に見られてしまう。掃除婦は男を脅迫したことで、命を落とすことになる。この殺人が彼が行った直接的な罪となる。

面白いのは「事件は自殺である」という真実に「真犯人は看護師だ」というミスリードを重ねさせることで、物語があたかも単純明快なストーリーかのように見せ、その裏でしっかり描かれているエピソードを繋ぎ合わせると真のストーリーが見えてくるところだ。決して必ず解けない謎であったり、ただ分かりにくいだけのトリックでもない。それに、名探偵がアホみたいに座っているだけではないのだ。それぞれには理由がある。

結果的に真犯人は探偵を呼び寄せることで看護師に罪をなすりつけようとしたが、その企みは失敗する。「遺言書の内容を知っていた人物」は誰か、という真実への取っ掛かりを探偵に与えたからだ。ここがまた良いと思う。
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