えむ

ウエスト・サイド・ストーリーのえむのレビュー・感想・評価

4.2
言わずと知れたミュージカル映画の金字塔、「ウエストサイド物語」のスピルバーグリメイク版。
(ラストについてちょっとだけ追加)

基本的なストーリー運びや音楽は変わらず、セリフなどもほんの少し言い回しを変えたりしているものの、あくまでも「リメイク」。
なんだけれど、舞台版やオリジナル映画版が染み付いてる身としては、随分印象が違ってちょっと驚いた。
あれ、と思って家に帰ってから速攻で録画残していたオリジナル版を観返してみたくらい。

特に冒頭の20分くらい、ジェット団が街中を闊歩していく様子の中に、街の変化の様子だとか、多くの移民系がいる街中での彼らと街の人々の様子などが比較的丁寧に描かれているせいでしょうか。

最初のジェット団とシャーク団の邂逅と小競り合いまでのシーンで、これから始まるストーリーの背景のようなものが観てる人の中にイメージできるのもあり、なんというかこちらのリメイクの方が、より全体が「なめらか」に物語が運ぶ印象です。
オリジナルだと、この辺の歴史的背景みたいなものを知らなければ、もっとシンプルに不良同士の喧嘩に見えるから。


特に物語の骨格を大胆に何かを変えてしまうようなこともなく、あくまでも「リメイク」に徹していて、でもちょっとしたシチュエーションの違いとか(同じセリフのために1シーン増やしてるとかずらしてるとかね)で、だいぶ印象違ってるのは確かでした。

作品が大好きすぎて、思いの丈を込めて細かいところにまで拘っちゃった、時に本家を凌ぐようなファンアートを見た時に、妙にそれが響いちゃうことがあるっていう、あの感じかもしれない。
本来の作品の画素の荒さの隙間をファンの想いが満ち満ちに埋めたもんだから、結果やたらなめらかになってるみたいな。笑

基本前情報なしで楽しんでもらえる作品だし、予習もいらないと思うけど、こちらの作品を観てからオリジナルの方を観ると、意外とシンプルに映るかもしれません。
ただ、シンプルなぶん、トニーとリフの絆みたいなものは浮き上がってきて、最後の悲劇が起こった時の「咄嗟に」が説得力あるから、オリジナルとリメイク、どちらにもそれぞれに優れた部分があると思います。

トニーはこっちのリメイク版の方がもっと能動的に平和さを望んでいる感じがするんで、より悲劇感は増すけどね。

大きく変わってるのは、一曲だけ全然違うシチュエーションと場所で使われてることと、トニーの後見人になってるのが男性から女性へ変わってるってところでしょうか。

なんだけど、この女性がね、胸アツなんですよ。
オリジナルのアニタ演じた、リタ・モレノ。

全ての登場人物の中で、アニタ、一番好きなんです。
「生」の塊のような力強く逞しい女性。

それがこんな形で。
個人的にはもうそれだけで、観た価値あったよ。
結局、最後全部リタが持ってった。

オリジナルより点が高いのは、リタ加算。笑



追記:(ネタバレになりますが)


ラストは今回の方が良いですね。より平和への希望が見える。

オリジナルはジェッツが取り残されるマリアに黒い布を被せて思いやりを見せてるだけだけなので、その後また両団の関係は元に戻っちゃうのかなって感じだけど、今回はトニーの亡骸をジェッツとシャークが「共に」運び、それにマリアが続きます。

その姿に、平和を目指したトニーの死をきっかけに、主柱なくした両団のメンバーたちに争うことへの虚しさと悔恨と、少しだけ生まれた互いへのリスペクトが垣間見える。
これから先、彼らはトニーとマリアをシンボルとして、少しだけ前よりも歩み寄って行くのかなって思わせてくれます。

こういう刷新は、時代を経てきてこそ、改良されたところじゃないでしょうか。オリジナル当時では、まだそんな簡単な感じではなかったんだろうな。
えむ

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