TaichiShiraishi

きみと、波にのれたらのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

きみと、波にのれたら(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

湯浅監督にしてはド直球ストレートすぎる恋愛キラキラ映画だけどクオリティは高い。アニメーションのうにょうにょ感は健在で水の動き見てるだけで楽しいし、いつもより普通のパートのアニメーションが大人しい分とあるシーンでの大飛躍のカタルシスは確かにすごかった。

オタクっぽさの全くない普通のリア充カップルを描くのも珍しいし、みんないい人すぎずリアルな人間造形。あの大学生たちだけわかりやすくクソに描かれていたけど(笑)。

ずっと同じ曲でしかも別にそんないい曲でもないから辟易した部分もあったけど、でもあの思わず一緒に歌っていて笑ってしまう場面のアフレコの自然さと多幸感は素晴らしかった。


話としては
あの夏いちばん静かな海とゴーストニューヨークの幻を混ぜた感じかな。

ただあの曲の使い方と普通にしゃべれるところは斬新だったし、トイレに呼び出すシーンは笑えつつもちょっと怖くなったりもした。一番最初に水に港が見えるところも怖かったなぁ(笑)。

登場人物が整理されているし、ほとんどサスペンス要素もなくいかにひな子が港の死を乗り越えるかにだけ焦点が当てられているのが潔いと思う。

港がもしかしたらひな子にだけ見えていてただの妄想かもと思わせておいて終盤にやっぱ本当だった!ってカタルシスが来る構成もいいね。

湯浅監督らしく生きていることの素晴らしさ、前を向くことの素晴らしさを衒いなく描いていた。

キャラの名前にも意味がある。

「ひな」子は、まだ事故が確立できていない雛のような存在。まだ自分の波に乗れていないひな子が依存する相手が「港」。ひな子とは対照的に、「洋」子はこれから先の人生の海原に乗り出して大きくリードしている。

そんなひな子が人の役に立つ仕事を選ぶくだりも、たんに港から影響を受けたって設定にせずに、じつはかつての彼女は既にヒーローで港に影響を与えていたって設定にしたのがバランス取れていて巧いと思う。

と、実は割と成長譚の方が大きい映画だった。でも悲恋としてもラストの1年越しに港からメッセージを受け取って泣くあたりはベタながらグッと来た。吉田玲子らしく、「本当だったら自分もああだったのに」っていうIFの自分を他人の姿に見て失ったものの大きさを知る切なさは健在。

ただ色々言いたいこともある。

ひな子はすげー簡単に引っ越ししてたけどそんな資金がどこにあったのか。仕送り?

あと、山葵がひな子に告白するシーンがあるから洋子との関係がちょっと急に見えるな。

あといくら何でも水入りイルカ風船持ち歩くのはリアリティないよね。周りの目があるし、夏場の炎天下で引きずったらすぐに痛んで割れるのでは(笑)。

あのクリスマスツリーのビルだってあんな状態で放置されないはずだし、港もあんな場所からサーフィンの要領で水に乗って逃げろって無茶いうなよ(笑)。

とかいろいろあるけど、水準は高いのは間違いない。ただ湯浅監督にはもっと他のぶっ飛んだ映画を作って欲しいのも本音です。
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