TaichiShiraishi

ポゼッサーのTaichiShiraishiのネタバレレビュー・内容・結末

ポゼッサー(2020年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

これまで「肉体と精神の変容」をテーマにさまざまな映画を撮ってきたクローネンバーグの息子らしく、ブランドンは「他者を乗っ取って変容させようとするがうまくいかない」主人公の話を描いた。その人体破壊描写は、主人公が精神に異常をきたす原因の一つとしての説得力をもたらす意味もあって、父親の映画に負けず劣らず、とんでもなく残忍だ。音のこだわりもすごい。

また、これまでどんな映画に出ても高確率で無惨に死んでいた俳優ショーン・ビーンの扱われ方も、意表を突くもので面白かった。

詳しくは言えないが、ストーリーは難解に見えて、要は「エリート殺し屋が家族を持ったことでだんだんと自分の所業に疑問を感じてしまう」というフィクションでもよくあるし、現実でもありそうな話。その問題をどう解決するかで、その作品のジャンルが変わるが、本作はそのなかでもかなり冷徹で残忍で救いがない。

特に主人公の精神状態を表す、任務遂行後の利用した身体からの「離脱ができるか否か」の描写は、最後の最後にゾッとするような後味をもたらす。よくよく考えたら「離脱」できる方が異常なのに、見ている最中その常識が巧みに失った状態になっていたことに気づかされた。

ストーリーは意外とわかりやすく、また他人の体に自分が「溶けて入っていく」表現の描き方は、CGになれている今の観客が見てもぎょっとするような手法で描かれており忘れがたい。あの描き方及び、「溶け方」の絶妙な気持ち悪さ、そしてポスターにもなっている逆に自分が乗っ取られたことを表す「皮かぶり」のビジュアルも強烈で、この手の映画を見に行った時に求めるエグさは及第点以上だろう。

後々なんとなく納得できないところも出てくるが、特殊効果の使い方、そして何よりも美しいのにゾッとするほどこの世のものならざる存在感を発揮しているアンドレア・ライズボロー、2つの人格とそれが混ざっている状態の「3役」を演じたクリストファー・アボットの演技が見事だった。
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