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キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのnetfilmsのレビュー・感想・評価

4.3
 水曜夜の時点で上映時間を確認したら、206分となっていて思わず頭を抱えてしまった。3時間26分は流石に長ぇわと。ここのところのスコセージ映画長尺化の背景には彼の深い映画愛があるのはわかるのだが、『アイリッシュマン』の209分は別格としても、実は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』でも2時間59分。冗長だった『アビエイター』も2時間49分。『ギャング・オブ・ニューヨーク』も2時間40分だから年々、スコセージの中で物語の長尺化が進んでいる。私は木曜夜の時点で通路側入口近くの席を押さえていたので、1度や2度のトイレ休憩は考慮に入れていたのだが、映画冒頭のオセージ族の吐瀉物で亡くなった青年の笑えない描写に、これは意地でも全てのショットを見なければと身震いがした。そのくらいもの凄い映画だった。1920年代、オクラホマ州にあった先住民オセージ族の居留地から突如の茶色の石油が吹き上がる見事なオープニング・シークエンス。列車が到着するとそこには戦争帰還者のアーネスト(レオナルド・ディカプリオ)が開拓者時代の若者のように目をぎらつかせながら登場する。周辺一帯に住むオセージの人々には石油採掘による巨額の対価が採掘していない人々にもほとんど無作為に支払われていた。実はこのことがのちに重大な意味を持つ。

 ジャーナリストのデイヴィッド・グランによるノンフィクション小説『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』を原作とするクライム・サスペンスは、何と450ページを超える原作があると聞いて驚いた。これでは3時間26分の長尺になるのも無理はない。親族に相続されるこの富を、白人支配者たちはあくどく搾取し、多くのオセージの人々が虐殺された。そこには当時の国内情勢から見れば、アメリカ先住民は世間知らずで粗野な人々であり、手にした富を浪費しないよう白人が監督する必要があるという白人側の手前勝手な理屈が流布され、オセージ族と白人との政略結婚がある種公然としてまかり通っていた。然しながら白人入植者たちの怠惰な態度と蛮行をアメリカ政府が後押しした側面は否めない。スコセージは今作のファミリー・トゥリーを何度も現わすかのように家族のセピア色に染まる集合写真を何度も登場させる。アメリカにおける白人の先住民族への搾取構造というのはあまりにも根深い現実を突き付ける。アーネストと叔父のキング(ロバート・デ・ニーロ)と純血女性モリー(リリー・グラッドストン)の共依存のような三角関係は恐ろしくグロテスクで、いかにもエリック・ロスが得意とするような栄枯盛衰の物語である。開巻から2時間が過ぎるところでトム・ホワイト(ジェシー・プレモンズ)が登場する辺りが絶妙で、クリント・イーストウッドによる『J・エドガー』への意趣返しの雰囲気すら漂う(実際に今作がFBI誕生の経緯となった)。確かに3時間26分は長いのだが、御年80歳を迎えたマーティン・スコセージの中では文句ないほどの崇高な力作で傑作。
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