スカポンタンバイク

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのスカポンタンバイクのレビュー・感想・評価

5.0
凄まじい映画だった。
劇中の言葉を借りれば、正に疫病にかかったような映画体験。

ザックリ言ってしまえば、オセージ族のオイルマネーを搾取する話なわけだが、そのやり方が本当に陰惨でキツい。連邦保安官の手が届きにくい場所とはいえ、ここまで雑で吐き捨てるように銃殺と薬物による衰弱死が起こり、それについて「運が悪いとしか言えない」と言う始末には開いた口が塞がらない。
今作、デニーロの顔面演技も凄いのだが、ディカプリオ演じるアーネストのキャラクターが相当印象的。アーネストは、キングの指示とその先にある未来は正しいのだと心底信じている。それが愛する妻の親近者に手をかける事であったとしても、その悪事に手を貸してしまう。ただ、そこには自分で確固たる思想があるわけでもなく、イマイチどんな人物なのかが分からない。直接手をかけないという所では「グッドフェローズ」のヘンリー・ヒルに近いが、この自分を持ってない感じは前作「アイリッシュマン」のフランク・シーランの方が近い。アーネストは口では自分の意思でと言ってはいるが、彼の行動は常にキングや連邦保安官の後ろ盾ありきのもので、自責による行動は一つもない。そのため、堅実な行動であると同時に全体に軽い感覚に襲われる。変な話、日常の延長感がする。
それに対し、モリーは常に「疑い」を持っているキャラクターという点でアーネストとは対照的だ。彼女がそんな中でほぼ唯一信じているのがアーネストで、特にアーネストのモリーへの愛は最後まで信じていた。実際アーネスト自身の思いは最後の最後までそうだっただろう。モリーへの愛は唯一アーネスト自身の心から出た自分の意思であり、だからこそモリーはそれに基く彼の行動を全て受け入れていた。
故に、最後のモリーの問いとアーネストの回答は映画の幕切れとしてキツい一撃だ。

「沈黙」「アイリッシュマン」との3部作として考えると、この3作はどれも「自分では何も選択してこなかった男たちの末路」を共通して描いている。唯一、「沈黙」はある種の救いでもって完結するが、結局のところ、ろくな末路はないし、ろくな死に方はしないんだというのをひしひしと感じさせられる。ホント、なんちゅーキツイ3部作なんだ...。

体感としては2時間くらいの映画だが、心身の疲弊は5時間レベルを食らった感じ。是非とも、映画館で観てほしいですね。