ナーオー

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのナーオーのレビュー・感想・評価

5.0
今年No.1の"本物の映画"!!!

『タクシードライバー』
『グッドフェローズ』
『ディパーテッド』
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』
などのマーティン・スコセッシ監督最新作。

前作『アイリッシュマン』は実在した殺し屋フランク・シーランの視点からフォレスト・ガンプのごとくアメリカの闇の歴史を横断的に駆け抜けていたのに対して、本作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』は闇は闇でも人々の記憶から忘れられかけていたアメリカの闇の歴史を真正面から捉えた、マーティン・スコセッシ監督の最大の力作、正真正銘"本物の映画"でした。

当初はデヴィッド・グランの原作小説『花殺し月の殺人 インディアン連続怪死事件とFBIの誕生』と同じく、白人のFBI捜査官の視点で脚本が練られていたそうですが、主演のディカプリオの要望からFBI捜査官の視点ではなく、オーセージ族の石油利権を奪おうとする白人側のアーネスト・バークハートの視点に変更。

2年間かけて作り上げた脚本を大幅に書き直し、白人に騙され殺されたオーセージ族の苦しみにより焦点を当てた映画になったそうです。

よって本来ディカプリオが演じる予定だったFBI捜査官を『アイリッシュマン』に出演していたジェシー・プレモンスが。そしてディカプリオは長年のキャリアでも類を見ないほど、惨めで情けない小悪党を演じています。自分では何もできない、叔父の言いなりなダメ男。コーエン兄弟の映画とかに登場しそうなくらいのボンクラで情けなくて笑えてくる。

このアーネストというキャラクターこそ本作のマーティン・スコセッシのユーモアだと思います。

そしてディカプリオとは1993年の『ボーイズ・ライフ』以来の共演となるロバート・デ・ニーロ。『グッドフェローズ』や『ケープ・フィアー』などデ・ニーロを怖く見せることができるスコセッシならでは。完全に『グッドフェローズ』のロバート・デ・ニーロを彷彿とさせる、一見穏やかそうだけど、本性はめちゃくちゃ怖いロバート・デ・ニーロを久しぶりに観ることができました。

特に法廷劇へと発展する終盤。
完全に『グッドフェローズ』オマージュもあり、『グッドフェローズ』がオールタイムベストな自分にとっては最高のファンサービスでした。

また来年のアカデミー賞で主演女優賞のノミネートが有力視されているリリー・グラッドストーンの名演も忘れ難い。家族を失った痛みや悲しみ、次は自分が殺されるのではないかという恐怖や不安、夫アーネストへの愛、そして失望などを台詞だけではなく、ちょっとした表情で語る見事な名演でした。

他にも『ザ・ホエール』でアカデミー主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーや『ミッドナイトクロス』、『レイジング・ケイン』のジョン・リスゴーらが脇役として出演していたりするその贅沢さ。

個人的にはアーネストの弟バイロン役としてHBOドラマ『ラスト・オブ・アス』で"デヴィッド"を演じたスコット・シェパードが出演していたのが嬉しかったです。

文字通り、マーティン・スコセッシが語るラスト。FBI長官のフーバーによってFBIを宣伝するために事件が利用された事実を猛烈に批判したラストはスパイク・リー映画級の鋭さでした。

『ウルフ・オブ・ウォールストリート』以降のスコセッシ映画の撮影監督を務めるロドリゴ・プリエトの美しい映像や本作が遺作の"ザ・バンド"のロビー・ロバートソン。実際にモホーク族の血を持つロビー・ロバートソンなだけあって、音楽だけでも映画史上最もアメリカ先住民への敬意を感じる。

206分という長尺な上映時間には賛否が分かれているとはいえ、『ミッド・サマー』などのアリ・アスター作品を参考にしたと言う独特なテンポ感。静かな場面でもどこか不穏な空気感が漂っている。そして急な暴力でドキッとさせられる、この作風のお陰で体感はそれほど長くはない。あっという間の3時間半でした。

間違いなく来年のアカデミー賞などに関わってくる重要な一作だからこそ"映画ファン"は絶対に観るべきな一作。

今年ベスト1は本作『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』に決定しました。
ナーオー

ナーオー