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ザ・ライダーのditaのレビュー・感想・評価

ザ・ライダー(2017年製作の映画)
4.5
獣神サンダー・ライガー引退の日に観たのも何かの巡りあわせだったのかもしれない今作、どうしてもザ・レスラーを思い出してしまい、髙山やGENTARO、そして星川に思いを馳せてしまう。泣くわこんなん…。美しい映像と静かに動く感情、そして馬と猫とイーサンホークに似た人が出てくる映画にハズレなし。以下相変わらずわけのわからない感情を書き連ねていますが、お時間のない方は名前だけでも覚えて帰ってください。『ザ・ライガー』違った『ザ・ライダー』、とても良い映画でした。

馬と人、ことばの通じない者が心を通わせるために必要なこと、目を見て、声を掛け、気持ちをこめて肌に触れる。翻って人と人、ことばの通じる者どうしが心を通わせることはどうしてこんなにも難しいんだろう。仲間は「また乗れるよ」と言い、医者は「もう無理です」と言い、妹は「死んじゃうよ」と言う。どのことばも彼を心から心配し、気遣うことばだ。ただ、彼がほんとうに掛けてほしかったことばは、彼をその道に導いた父親に掛けてほしかったことばは、「やめろ」ではなく、”Good boy”ということばだったのではないかと思った。目を見て、肌に触れ、いい子だねと言ってほしかったのではないかと思った。

生きていること、を実感できる場所があることは幸せな反面とても残酷だ。堕ちてしまうくらいなら、最初から乗らなければいいとずっと思って生きてきた。それでもわたしは、たった8秒のために命を懸けるライダーを見て、泣いた。ほんとうは、そんな風に生きたいんだと思った。生きていること、生きていく場所、生きていく意味、を見出していきたいんだと思った。先日観た『マリッジ・ストーリー』の劇中で歌われた”Being Alive”に流したわけのわからない涙の意味が、今作を観て少しわかった気がした。

なんとなく生きて、なんとなく死んでいくであろうわたしには、生きているということを実感出来る場所や瞬間がない。夢なんてとっくの昔に捨ててしまった。しがみつく根性も追い掛ける情熱も、諦めと現実という壁にぶつかり簡単に砕けてしまった。いつまで経っても勇気も根性もないわたしが「生きていること」を実感できる場所をこれから見つけていけるかどうかはわからない。このままなんとなく、を続けるほうがやっぱり楽だなと思っている自分もいる。それでも、人生という荒馬から降りる時には、よくやったね、いい子だったねと誰かに言ってもらえるように、何より自分自身にそのことばを掛けてあげられるようになりたい。いや、なろう。やっぱりプロレスと映画は人生の縮図だ。

最後に、この作品を薦めてくださった方へ。ほんとうにありがとうございました。大切な映画がまたひとつ増えました。
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