氷雨水葵

ホテル・ムンバイの氷雨水葵のレビュー・感想・評価

ホテル・ムンバイ(2018年製作の映画)
4.5
2022年リライト45本目

アーミー・ハマーを追いかけて

◆あらすじ
2008年11月26日。インド・ムンバイの五つ星ホテルの従業員である男性アルジュン(デヴ・パテル)は、臨月の妻と幼い娘に声をかけ、普段と同じように出勤する。

イラン人令嬢ザーラ(ナザニン・ボニアディ)とアメリカ人の夫デヴィッド(アーミー・ハマー)は、乳児ャメロンとベビーシッター・サリー(ティルダ・コバン=ハーヴィー)を連れ、タージマハル・ホテルにやってきた。

一方で、青年テロリスト10人がCST駅をはじめ、ムンバイ市内の複数の箇所を襲撃。その後、テロリストの一部はアルジュンが勤めるタージマハル・ホテルを占拠した。

500人以上の宿泊客と従業員がいるなか、テロリストの無慈悲な銃弾が襲いかかる―――。

◆感想
いつもの朝、いつもの会話、何気ない日常なはずなのに、突然訪れる極限状態。映画館に観に行った当時は、衝撃的な内容にびっくり。今観ても凄惨な内容で、テロに馴染みのない日本人にはこういう作品を観てほしい。

アルジュンがホテルに出勤するいつもの様子を描く一方で、トイレで武装する青年たち。そして、ホテルでの接客風景を描きながら、少し離れた駅で起きる無差別テロ。序盤は対比シーンが多いものの、ホテルにしれっと入ってきた青年たちに観客は恐怖を抱くと思います。人目がたくさんあるなか、堂々と銃を取り出して何の迷いもなく引き金を引くことに衝撃。成す術もなく、無残に殺されている客や従業員の姿は目をそむけたくなりますね。フロントからの電話は死のお知らせ。

そんななかでも、客を安全な場所に移動させようと奮闘するホテルマンたちの姿や気遣いが素晴らしい。ずっと緊張感が漂っていて演出最高。赤ちゃんを連れてる設定は『クワイエット・プレイス』よろしく、音をたてたらほんまに死ぬやつ。逃げ惑う客の極限状態もそうですが、なによりテロリストの残忍さがしっかり描かれていたのがすごい。誰かに命令されるまま引き金を引いていたら、おそらく感情なんてものはないし、プログラミングされた機械のように人を殺すという・・・。

テロの恐ろしさを知れるのと同時に、従業員たちの勇気のある行動が、どれだけの命を救ったのかが分かります。アルジュンやオべロイ料理長に拍手を送りたいですし、妻を死なせまいと他人のフリをする夫の行動もすごい。脚色されている部分はあると思いますが、涙が止まらない内容に仕上がっています。

従業員たちにも、客にも、そしてテロリストたちにも家族がいる。自分たちの行動がほんとうに正しいのか葛藤する姿も描かれていますが、感情移入できたものではないです、というのが本音。
アンソニー・マラス監督目線で、人間愛がいかに素晴らしいものかを描いています。下手に行動すれば殺されるかもしれない極限状態で、顔をあげる妻ザーラの信念がすごい。

決して明るい作品ではないですが、観ないと後悔すると思います。
氷雨水葵

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