朝倉

影裏の朝倉のレビュー・感想・評価

影裏(2020年製作の映画)
4.3
こんなにも抜け落とすものなく、人間の生活を丁寧に描いた邦画作品はそうそうないのでは?

綾野剛さん演じる今野が、几帳面な人物なことがその丁寧さにも繋がっているのだと思いますが、余裕のある映像表現が一番の理由と感じました。
日常風景を映す作品はたくさんありますが、本作は本当の日常、映画を観る側の人間たちが営む日常をそのまま映しています。移入しやすいです。置いてけぼりにならないです。スクリーンを通して、非現実の人間の姿を見ているけど、それは現実のものである感覚です。

本作には”美”が柱として、いくつも立っています。

1つは、生活の美。
毎朝顔を洗うよりも何よりも先に、育てるジャスミンの花を日に当て水をやる。…もうこれを聞いただけで、何か綺麗と感じますよね。そうなんです、この今野という男、綺麗な暮らしをしているんです。
彼のモーニングルーティーンやらナイトルーティーンとやらをYouTubeにアップしたならば、余裕で10万回再生はいきます。
そのくらいに、心地の良い今野の日常風景は本作の魅力であり、作品を巡る血でもあると思います。彼の、”美の生活”は要注目です。

そんな、ゆったりと爽やかな風の吹き抜ける今野の生活に、あるスパイスが加えられます。日浅という男です。
この男が、2つ目の美である”友情の美”をもたらします。

知り合いも友達もいない地で、心許すジャスミンの花に水をやる毎日を過ごす今野。心に傷を負っているような影を持つ彼の前に、ふわっと現れた日浅。今野とは真逆、フリーダム人生イェアな日浅は、独自の空気感をまとい、独自の距離の詰め方をもって今野の変わりばえしない生活と、薄暗い心を変えていきます。締め切った部屋の窓を開け、入り込んだ空気がカーテンを揺らす感じで。
お互いを詮索した深い会話なんていらねえ、焼酎とつまみで夜を明かして、肩並べて釣りをして、音楽喫茶でタバコを味わう、これだけで俺らの友情は築いていけんだよ。
…完全に日浅主導権政権です。けど、相手がよかった。今野は空洞を持った心をしているから、満たしてくれているから。パズルのピースみたいな2人が、友情を強めていく姿は本当に美しいです。

最後の美、これは終盤に起こる事件の真実がわかった瞬間です。
光を浴びる今野の表情、日浅の揺るぎない生き方。
これを見た瞬間、知った瞬間、美しいと感じるはずです。

主張していないのに、その随所に光る美しさを感じとってしまう。
ポスターからは計り知れない、暖かくて美しくて爽やかな本作は映画館で観ていただきたいです。
たくさんの自然、日常の音、人間の心が動いている瞬間、スクリーンで観たならばその美しさたちは、自ずと体が吸収して快感となるはずです。


(長すぎてよく分かんねえよって方、「君の名前で僕を呼んで」「ゆれる」が好みであればバチバチに魂揺れると思います)