真田ピロシキ

ウィーアーリトルゾンビーズの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

3.3
前作である短編の『そうして私たちはプールに金魚を』を大人によるエモさ搾取に反抗するかのような映画と思ったが、今作では「エモいって古ッ」という台詞があるように少年少女は夢を持ってキラキラとしてて感情豊かな存在でなくては不健全と思う大人へのアイロニーが強まっているように感じた。泣かないことを咎める親戚のおばさんやお涙頂戴MVを用意する音楽関係者など大人の世界には泣きに対する信仰のようなものがあって、ゾンビとして過ごすのは嘘の感情に溢れた大人のルールへの抵抗。バンド結成という普通の物語なら大きな熱量を持って描かれる事も低いテンションで、「私達を見て泣けばいい。感動して。なんつって」と言わせてるように心揺さぶる感動ストーリーを拒絶して進むのがインディーズ映画らしく挑発的。大作系日本映画によく見られる感動押し売りが嫌いな人であれば本作と波長が合うかもしれない。

しかしその世界にはどうにも作り物感が拭えなくて、例えば主人公ヒカリがイジメられているとかあるのだけれどそれがフィクションで語られた内容の引用のようで、それに対する姿勢もちょっとないだろうという感じ。達観した中二病キャラかと。ちなみにそんな中二的という印象を抱かれるのを見越したかのようにまだ中二じゃないと劇中でツッコまれてて、他にもセルフツッコミはメンバーの紅一点イクコによく見られてこういうのを見ると監督は自信がないのかという気になってくる。またヒカリの両親を死なせたバス運転手に対するネットリンチにも新鮮味はなくて今の時代の病巣を浅く掬い取ったようにしか見えず大して嫌な気分にもならない。見る側まで感情の動かないゾンビにさせられては困るなあ。レトロゲーム風の音楽や演出もスレたゲーマー的にはこういうのでウケを狙われるの飽きてるので、エモさの搾取には抗っていてもノスタルジーを搾取しようとしているように感じてあまり面白く思えず。それ以外にも色々手を変えてやってたがどちらかと言うと鼻についてしまった。

結構多くの点でプールに金魚をと重なる点があってそのために二番煎じ感が否めなかったのも痛かった。ただこの先幸せになれるか分からなくても人生というクソゲーをコンテニューする決断をさせたのはプールに金魚をからの大きな進歩と感じて、大人から子供への真摯なメッセージに思えた。捻くれた映画のようでいてその奥底はポジティブ。明るくなるのが必ずしも良いとは言わないが映画の広さは前作より確実に拡大している。