真田ピロシキ

ジョジョ・ラビットの真田ピロシキのレビュー・感想・評価

ジョジョ・ラビット(2019年製作の映画)
4.0
ナチスの映画くらいの情報しか持たずに見た。おお、お気に入りのフォックスサーチライト映画。ビートルズの音楽をバックにナチに熱狂する大衆の記録映像から始まる主人公ジョジョの姿。チビで気弱な彼最大の親友はイマジナリーヒトラーでヒトラーユーゲントに参加するも度胸試しに兎を殺すよう命じられても出来なかったために嘲られその場を逃げ出してしまう。その後イマジナリーヒトラーに勇気付けられて手榴弾投擲に割り込み手榴弾を投げるも木に当たって跳ね返り大怪我を負う。これはヒトラーが無責任に勇ましさを囃し立てて若者を死地に送った事の比喩で、ジョジョが最終的にイマジナリーヒトラーと決別して物語の幕を閉じるのだろうと予感した。こういうマッチョな物語を持った"救世主"に愛と親しみを覚える人々が全く昔の話ではない事は皆さんご存知の通り。しかし始まってすぐに結末が予想できるのはどうよ?と思ってこの時点ではやや期待外れ。

ところが顔に大きな傷を作ったジョジョが人気のない家で母ロージーを探してるところから一変。最初に言った通り全く情報を仕入れてなかったので男でも連れ込んでるのかと思ったが、真実は屋根裏にユダヤ人少女。そうか、普通に考えつきそうなのにすっかり失念してた。ジョジョはバリバリのナチスかぶれなのでユダヤ人少女エルサにも敵意剥き出しだが、7歳も離れてるのであっさりとユーゲントのナイフを奪われ主導権も握られる。それと同時にロージーが「ドイツは負ける」とジョジョの前では大っぴらに口に出し、戦時下のマッチョな言葉とは正反対の価値観を伝えようとしてて、この点でも現在の映画で主要な要素が感じられる。それに連動してかイマジナリーヒトラーの出番は段々減少し、出て来ても距離は以前と比べて遠い。

ジョジョは表向きは見下して偏見もあるがエルサに好意を抱くようになり、エルサにフィアンセの存在を聞かされると別れの手紙を捏造して聞かせたりする。手紙が届く訳ないのでショックを受けているのが分からず嘘と分かってても会えない現在その可能性が現実になる事を悲観したのかと思ったが、最後に理由が判明。既に永遠に別れてて、だから罪悪感で苦しい否定の手紙を書いたジョジョにも微笑ましい好意を抱いたのだろう。

本作はイマジナリーヒトラーが表すようにファンタジーの境を行き来するのでどこか現実離れした描写がある。連合軍が攻め込んだ時にキャプテンKがヒーローのように応戦し始めた時はこれは現実の光景なのかと思い、ロージーが吊るされたシーンもジョジョが見た悪夢かと思って戸惑った。またこれはかなり珍しいと言うか踏み込んだと思うのだが、ナチスを描くに当たって血も涙もない冷血集団にはしておらず、コメディとして滑稽にされているもののヒトラーユーゲントの訓練には青春ドラマ的な趣があり(しかしユダヤ人の中傷や焚書をする)、連合軍と戦って死んでいく人達は悲壮で同情を覚えるように描かれる。抜き打ちの家宅捜索に訪れたゲシュタポが新しい人と会う度に5人全員順番に「ハイル・ヒトラー」と言うのもスリリングなのにちょっと可笑しい。そのゲシュタポの捜索で姉のインゲと偽ったエルサの嘘を見破ったキャプテンKがロージーの死因なのだろうが、彼も書き割りのような悪のナチ将校ではなくて、軍服を着てたために連合国に処刑されそうになったジョジョを「ユダヤ人め、失せろ」と言って救ってて、ロージーに関しては軍人である以上職務に従ったが彼女にもジョジョにも好感を抱いていたのは本当で、最初の方で堂々と「ドイツは敗色濃厚」と言ってたように盲目的な服従を強いていたナチのスローガンとは対照的に自分の目で見えていた人で、そんな人が間違った機械の歯車にされて失われる物悲しさを見せられた。これは少し加減を誤れば親ナチス映画になってたので優れたバランス感覚。

その辺のバランス感覚の上手さはタイカ・ワイティティ監督が自ら物語の鍵であるイマジナリーヒトラーを演じられてた事と無縁ではないように思う。優しくて出来ることをやる意志のあるロージー役のスカーレット・ヨハンソンやエルサ役のトーマシン・マッケンジー、ほとんど喋らないが印象的なキャプテンKの副官役アルフィー・アレンなど良かったと思う人は多いが、この人をと挙げるならジョジョ役のローマン・グリフィン・デイヴィスとタイカ監督。