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クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅のsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
陽気な「ライフ・オブ・パイ」。ポップな寓話。

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インドの貧しい町で手品師兼スリをしている青年アジャは、母の死をきっかけに行方知れずの父を探すためパリへ渡る。僅かな荷物と100ユーロの偽札を握りしめ、まず向かったのは憧れの北欧家具店。ひょんなことから閉店後の店内で一夜を明かすことにしたアジャだったが、隠れたクローゼットがそのままトラックで搬出されてしまう。そこからアジャは、世界を巡る奇想天外な旅に巻き込まていく。

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完全にノーマーク。前知識も何もなく、たまたま時間が合ったから見たら、思いの外面白かった!今年のベストテン級なんじゃなかろうか。いい映画見た!

原作はフランスのロマン・プエルトラスによる「IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅」タイトルなげえ!サドゥーは主人公の名前じゃなくて、インドの行者のこと。原作だと大道芸人じゃなくて、インチキ苦行を見世物にして御布施をたかる奴らしい。ふてえ奴だ。

原作者のロマン・プエルトラス自身流転の激しい人で、作曲家・語学教師・航空管制官などを経て、国境警察本部の警部補を勤めている間に、スマートフォンで通勤中に書き綴っていたものだそう。30カ国以上で翻訳され、映画化までされるんだから、原作者の人生もまたドラマチック。映画も主人公アジャを語り手にしたつくりで、物語を語る/聞く意味についての寓話でもある。

主人公アジャが世界の不公平を知る旅でもあって、誰もが公平な扱いを求めるけど、実際は人生のスタート時点で差がついちゃってる。身も蓋もない話を冷笑的に突き放すわけでもなく、悲劇的リアルにも描かないバランス感覚が素敵。
不法移民や難民、世界の貧富の差〜ソマリアの海賊etc…リアルタイムで世界に起きてる事を描いて、アジャの旅を通じて「幸せ」を知る話。もし世界の難問について解決策があるならば、ひとまずこういうスタート地点に立つのはどうだろうってバランス。有形無形に関わらずお互いに分け前を分ける大事さ、自分の幸せが何処にあるか知っておく。

ケン・スコット監督の作品は初鑑賞。スピーディーな展開と物語の本線に何が必要か情報整理力が素晴らしい。悪くいえば一本調子で大展開も驚きのラストもないけど、今作だとそれが作品全体を覆うハッピーさに寄与してると思う。


公開規模も小さいし、映画館で見てる人が少ないのがもったいない。
寓話だけど哲学的小難しさや説教臭さが全くない! ご陽気に人生の起伏を楽しむような語り口で超たのしかった!

56本目
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