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新聞記者のsomaddesignのレビュー・感想・評価

新聞記者(2019年製作の映画)
5.0
手放しで面白がりにくい。
本格ポリティカルサスペンスって対岸の火事だから楽しめるもんだったのか。

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ある夜、東都新聞社会部に医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。記者・吉岡えりかは真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に投身自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫られる杉原。そんな2人の人生が交差し、ある事実が明らかになる。

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日本にも「大統領の陰謀」や「ペンタゴン・ペーパーズ」、「スポットライト」みたいな硬派なポリティカル・サスペンスがやれるんだ!
映画自体はフィクションだけど、劇中起きてる事は今まさに現在進行形の問題ばかりだし、陰謀そのものより周縁部の珍騒動を冷ややかに突き放して見てる視線が面白い。
参院選を間近に控えて、観客に真贋を委ね考えさせる作りが突き刺さる。

実話ベースで起きたことの隠蔽を暴く「スポットライト」や「ペンタゴン・ペーパーズ」に比べれば、全容が分かりにくいし、主人公二人が交差するまで時間かかりすぎてイライラする。陰謀そのものより、組織的な隠蔽体質の怖さだったり、長い物には巻かれたい世間の空気の熟成される過程の恐怖を見せる映画なのかも。
「モリカケ問題」や「詩織さん事件」等、記憶に新しい時事問題が盛り込まれてるのもあって、参院選前の公開って大変挑発的。
(実際公式サイトは何度もサーバーダウンしてるようだし)

知らず知らずのうちに、こういうリアリティの映画が作られることを「攻めてる」って感じてしまえる位、普段の自分がいかに物言うことに萎縮してるかって気づかせてくれる映画に思えた。


松坂桃李は不正を暴く正義に突き動かされる官僚ってより、自分の職務にどこか違和感を感じながらも同調圧力に抗えない自身の無力感に苛まれてる演技が良かった。あの若さでエリート街道まっしぐらで、奥さん本田翼とか無敵すぎる。裏山しすぎて感情移入しにくいくらいだ。

女性記者:吉岡演じたシム・ウンギョン。「なぜ韓国人女優が?」とも思ったが、作品を見て納得。設定的にも役回り的にも日本の内にいながら外からの視点の人を担っている。「SUNNY」の若き日のイム・ナミ役が印象強くて、田舎娘が凛として強い駆け出しジャーナリストに見事な変身を遂げてた! なんつっても日本語も英語もペラペラっぷりに驚く。2年ちょいの勉強でこんなに喋れて、舞台挨拶もインタビューも応対できるのホントにすごい!(通訳はいたけど介さずとも会話できてた)

本田翼が聖母すぎてリアリティラインを下げてしまうとか、田中哲司の役割が漫画っぽすぎて、人間の卑近さだったり考えなしに同調圧力に流される危うさが薄まってしまったのが残念。

リドル・ストーリー(明確な答えを出さずに終わること)な締めくくりは観客に判断を委ねる作りだし、物語の真の決着は見た人自身が現実世界に反映して欲しいって願いなんだろう。
(杉原の口の動きで言ってる事は分かるけど、それが彼のどういう決断を意味するかは観た人次第。誰に向けて喋ってるかにもよるし)


62本目
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