TAK44マグナム

屍人荘の殺人のTAK44マグナムのレビュー・感想・評価

屍人荘の殺人(2019年製作の映画)
3.1
確かに前代未聞。


今村昌弘の原作小説を木村ひさし監督で実写映画化。
主演は神木隆之介、浜辺美波。
共演に中村倫也、柄本時生、山田杏奈等。

所謂これはミステリー作品なのですが、特異で突飛なアイデアが中心となったジャンルミックスとも言うべき「前代未聞のホラーミステリー」であることが特徴です。
元来、ホラーとミステリーの親和性は非常に高く、例えば「スクリーム」のように犯人探しの要素が濃い作品も過去に何作も存在します。
「羊たちの沈黙」や「SAW」シリーズなども同様でしょう。
しかしながら本作が特異なのは、あるホラーキャラクターを「閉ざされた山荘」を作り出すための状況設定に使っただけでなく、ちゃんと殺人事件のトリックにも利用している点です。
特異な状況がなければ、そもそもトリック自体が機能しないのですから、島田荘司の諸作(「水晶のピラミッド」や「斜め屋敷の犯罪」)のように評価されてもおかしくないのではないでしょうか。
そういえば原作小説は歌野晶午など島田荘司が提唱した新本格出身の作家さんに絶賛されているので、あまりにもホラー、そしてSF的な状況設定も新本格以降は別に禁じ手でも何でもなく、至極真っ当な設定なのだという認知なのでしょうね。
それにしても突拍子もないのですが、問題なのは突拍子がなく非現実的なことではなくて、実写映画として観るとあまりにも都合が良すぎるのが悪目立ちしてしまうという事です。

原作は未読ですが、大変意欲的で素晴らしいトリックが使われたミステリーだなと思います。
「閉ざされた山荘」、つまりクローズドサークルもので、個人的な嗜好とも合致するので観るのが楽しみでした。
しかしながら、些かこれでは薄口すぎる。
あんな世界の終わりみたいな状況下で、しかも山荘の中には殺人鬼がいるかもしれない。
なのに緊迫感がほとんど感じられないのはどうなのか。
「ショーン・オブ・ザ・デッド」を観ている人物はゾンビオタクなので嬉々とするのも理解できます。
(因みに原作だと映画研究部という設定なのでゾンビオタクでも通用しますが、映画ではロックフェスサークルに変更されているので唐突にゾンビオタクと言われても違和感があります)
また、サークルOBで山荘の持ち主である柄本時生が食糧をもって自室に閉じこもるのだけは理解できる行動でした。
しかし、その他の登場人物たちは閉じ込められていることにも殺人事件に対してもあまり緊張もせず、争いや葛藤がほぼ生まれません。
食糧が尽きようとしているなら、大人しく最後のウインナーを食べる前に柄本時生の部屋のドアを破壊して食糧を奪ってもおかしくは無いのではないか、と思ってしまうのです。

要は、登場人物がみんな記号でしかないんですね。
犯人と被害者。
探偵と助手。
トリックに利用される者と、まったくの傍観者。
探偵と助手は主人公ですからそれなりに描かれますし、何なら彼らにしかバックボーンがありません。
あとは解決編になって初めて犯人のバックボーンが語られるのみです。
小説でも映画でも短編ならそれでも許されますが、長編でこれは酷い。
全体的に淡白に感じられるはずです。
人間じゃなく、記号なんですから。

メインのトリックについては、メチャクチャ驚くほどのものではありませんでしたが、筋はキチンと通っていましたね。
たぶん原作はもっと注意を払ってトリックを完結させているのでしょうけれど、かなり雑な部分もありました。
脅迫状の扱いに関しては「え?それでオシマイなの?」と、あまりの意味のなさに逆に驚いちゃいましたよ。
謎でも何でもないじゃない(汗)
何のカタルシスも無い。

ホラーとして怖くは無いし(頑張っているのは分かりますけれど空回りだし、残酷描写はみんな「ファイナルデッドサーキット」のラストもしくは必殺シリーズみたいな処理なので緩い。レイティング上、仕方ないのでしょうけれど)、ミステリーとしても捜査から検証まで流れが薄いので、とにかく中途半端な代物が出来上がってしまった印象でした。
こういうのこそ三池崇史監督が無茶やったりすると面白くなりそうではあるのですが、アイドル女優映画として見れば浜辺美波がたいへんキュートに撮れているので正解なのかもしれません。

いや〜、それにしても可愛い!
浜辺美波は可愛いです。
神木隆之介が劇中やたらと「可愛い」を連呼するだけはあります。
その浜辺美波が演じる探偵役の剣崎比留子というキャラクターが殺人事件より、よっぽどミステリアス。
何を考えているのかさっぱりわからないし、何となく一貫性もないように感じてしまうヘンテコな美少女なんですよね。
変顔も凄いし(しかもそれさえ可愛い)、行動も、いちいちとるポーズも、全てがよく分からない。けれど魅力的に見える。
その魅力の半分は原作者が作り上げた人物造形にあるのでしょうが、あとの半分は紛れもなく浜辺美波が醸し出しているもの。
彼女が本作の底を支えているといっても過言ではないでしょう。
神木隆之介とのコンビも笑わしてくれて、ホッコリできましたよ。
この映画は、浜辺美波の長いPVだと思えば良いのではないでしょうか。
そう思えば、多少の粗があっても問題ないですしね。


見事なのは、普通のミステリーにしか見えなかった予告編です。
完全に閉ざされた山荘モノにしか見えませんで・・・だからこそ観たくもなったのですが(苦笑)
また、中村倫也演じる明智恭介とのダブル探偵モノの様に思わせておいてアレでは、中村倫也詐欺と責められても仕方ないのでは?
重要な役ではありましたが、出番が・・・(汗)
明智小五郎と神津恭介を足しただけのテキトーな名前からして、この扱いも当然なのかもしれませんけれど、面白いキャラクターだっただけに勿体ない気がしちゃいました。
事件が起きる前に犯人が分かっていたわけで、アホなところもありましたけれど人間観察に関しては高い能力の持ち主だったのでしょうね。

想像以上にポンコツな作品でしたが、愛すべきポンコツでもありました。
軽めなミステリーがお好きで、ホラーである意外性を素直に楽しめる方、そして浜辺美波や山田杏奈のファンの方に限るならオススメできます。
映像や音響的なスケール感もないのでレンタルや配信待ちでもじゅうぶんだと思いますけれど、大画面で浜辺美波を見るのも至福でしょうから余裕があれば是非どうぞ劇場でご堪能くださいませ。


劇場(イオンシネマ海老名)にて