Automne

天気の子のAutomneのレビュー・感想・評価

天気の子(2019年製作の映画)
3.1
東京の瑞々しい描写は相変わらず綺麗で魅入ってしまうほど。アニメーションでここまでのクオリティを担保できるのはいまの日本でも有数であるように思います。
ストーリーや諸々のところは置いておいて、これは雰囲気で愉しむ映画なのだと思います。
最後の空を飛ぶシーンは完全にジブリ作品のオマージュなのだと思いますが、ジブリのほうが私は好きですね。
思うに、新海監督の魅力というのは〝童貞感〟だと思っていて、基本的に君の名は。の登場人物と同じように、非常にうぶで放って置けないキャラクターというのをずうっと通底して描いているのはまさに驚異。ある程度年齢を重ねれば誰しもが失ってしまうような少年というものを持っているというところでしょうか。
どこか完璧でない、というよりも絶妙に外してしまっている、それは意図的なのかどうかは分からないですが、この映画はそういうところを愉しむためにあるのだとも思います。
例えば、歌舞伎町。風俗嬢が〜、バニラが〜、とツイッターで話題になっていたのでどんなものだろう、と思いましたが、完全に歌舞伎に行ったことのないひとの描いた歌舞伎町。つまり自分の経験したことのないところを想像力で満たそうとして、少しばかり現実とは外した感じになっているところが、童貞感というところに繋がりますね。大人のお姉さんも、少しセクシーに描かれるけれども、実際のところは何も性的観念も崩壊していない、すごく純粋な普通の女の人で、つまりガチガチでそういう登場人物を持ってくることはできない、それは童貞感に反するからだ、というような気がする。
例えば、主題歌。RADWIMPSは若者に人気だから使った、というようなことを言われがちですが、RAD自体が君の名は。で再ブレイクしただけで、いまの若者が聴くにあたっては少し古い、というよりもベテランに近いところ。前前前世から、RADの方向性が若者向けに軌道が再度戻された、という意味で君の名は。はバンドのファン層を入れ替える意味で大きな映画であったように思います。完全にいまの若者向けに音楽を選ぶならば、米津玄師などはそれらの筆頭であるように思いますし、そこのあたりも絶妙にニアミスで外している。これも新海監督のオリジナリティであるように思います。
それと話は飛びますが、どうしてアニメーションに携わる方は〝白鯨〟のモチーフが好きなんでしょうね。
天気と白鯨と言えば、アニメで言えばRe:ZEROでそんなのが出てきたと思いますし、バケモノの子でも、大きなクジラ、白鯨がでてきたような気がします。それらのどれも使い方がすごく似ているんですよね。
文學に関しても、なんでしょう、この映画はサリンジャーを取り上げていて、村上春樹の映画版なのかな、みたいなそういうものを感じました。なんといったら分かりませんが、文學青年=ライ麦畑で捕まえて のイメージってありますよね、ですからそこも王道の王道を行くのか、けれどサリンジャー自体もかなり古いもので、現代に置けるサリンジャーのポジションは常に文學がある限りは更新され得るわけで、村上春樹とか出してきたら面白かったんですけどね。
ですがこれらのニアミスも、先程述べた〝童貞感〟というところですべて言い切ることができる。新海監督が若い、あれくらいの歳に読んでいたのがサリンジャーで、若者に流行っているだろうと思って聴いていたのがRADであって、ということですね。だから新海監督の中身は、純粋性を保ったまま、ある時期から止まってしまっているのです。
けれどそういう捻くれた目で見てしまうくらいには、新海監督にはいつも期待しているのだと思います。
自分の中の今後の期待値で表すと、ジブリの借りぐらしのアリエッティを観たい気持ちくらいの期待値です、おやすみなさい。
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