ぽん

アスのぽんのネタバレレビュー・内容・結末

アス(2019年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

自分にソックリな人物が自分を襲ってくる。こういう根源的な恐怖をかきたてる設定が良い。
ある日突然もう一人の自分が現れて自分の存在をおびやかす。ドストエフスキーの『二重人格』も同じテーマだった。ただ、精神的にジワジワ追い詰めてくるドストと違って本作のジョーダン・ピールはもっと過激。武器のでっかいハサミでバッサバサと切り付けてくるのが恐ろしい。しかもドッペルゲンガーは主人公ひとり分だけじゃなくファミリーまるごとコンプリート。いやいやそれだけじゃ済まない町中じゃん!っていうハチャメチャぶりで、21世紀の恐怖譚はこうでなくっちゃねという賑やかさで私はけっこう楽しめた。

冒頭、海辺の夜の遊園地がイイ。楽しい場所のハズなのに何故か不安げな表情の少女アディ。やがて迷い込んだ不思議館。「本当の自分に出会える」という看板が意味深で。鏡だらけの迷路で彼女は自分にソックリな少女と出会ってしまう。鏡の中にいた後ろ向きの自分・・・って、これはルネ・マグリットの「複製禁止(エドワード・ジェームスの肖像)」という絵画作品だ。コピーしちゃダメよ、というメッセージはこの物語の重要な伏線になっている。

あんまり理屈に合わないヘンな真相も、あの白い地下室のビジュアルとドッペルさん達のシャドウ演技のヘンテコさが面白かったので生ぬるく見逃しましょう。
上層と下層ってな「メトロポリス」(1927)のごとき二極化世界と、革命?を起こす連中の赤、この辺なんか見てもやはり共産主義を意識しているのか。
今、経済的に恵まれている人々の生活は、見えないどこかで抑圧され搾取されている人々の犠牲の上に成り立っているのだよ、という資本主義批判が読み取れなくはない。

で、最後の最後のどんでん返し。シンプルだが力強い大オチに唸った。

なにより、ルピタ・ニョンゴの演技が素晴らしかった!ギラギラと鋭利なまなざしと特殊な発声でドッペルゲンガーの悲哀と鬱屈を見事に体現していたと思う。あの狂気を裏打ちする哀切。あっぱれ!
ぽん

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