Eryyy678

戦場でワルツをのEryyy678のレビュー・感想・評価

戦場でワルツを(2008年製作の映画)
4.2
第81回アカデミー外国語映画賞ノミネート作品。日本や欧米のアニメーションばかり観ていた私としては、なかなか盲点でした、イスラエル。

非常に変わった形式のアニメ。作中の主人公は、映画の監督であるアリ・フォルマン自身で、「イスラエル国防軍」の兵士だった彼は、自身が従軍した「レバノン内戦」での部分的な記憶を失っている。その記憶が何なのか。それを知るために、彼はかつて内戦に関わっていた兵士や、仲間達に会い、真実の記憶を探ろうとするドキュメンタリー。

独特の陰影と色彩を放つアニメーション、実写に沿ったかのような登場人物のリアルな仕草、元兵士達の回想内で描かれる戦争は、兵士の恐怖や混乱に満ちている。不意打ちで仲間が殺され、「応戦」できずに逃亡する兵士。敵がいるかもわからないのに、暗闇にひたすら銃撃する兵士達。

そしてフォルマン監督の記憶の中で、失われたもの。レバノンの親イスラエル政党「ファランヘ党」。彼らが行なっていた、パレスチナ難民への虐殺。その時、彼は何をしていたのか?

イスラエルとパレスチナ。レバノン。この辺りの歴史に造詣の深い人なら、この映画をより理解しやすいかもしれません。イスラエル国民の多くはユダヤ人で、パレスチナとの対立が長く続いています。かつてユダヤ人は迫害を受けました。しかしイスラエル人である監督の心理の深層には、決して受け入れられないものがあったのかもしれません。それは「ナチスと同じなのか?」ということ。

人間、忘れたい記憶って、自然にデリートされることがあるのかもしれません。自己崩壊を起こさないために。
非人道的行為の「悲惨さ」は映画から伝わるのですが、自己と「向き合う」ことこそ重要。それがこの映画の本質ではないかと感じました。

万人に薦められる作品ではないかもしれないけど、ストーリーも含め、この監督にしか作れない作品。こういう映画に出会えるのもまた、発掘の楽しさかな。
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