ブタブタ

ヨーゼフ・ボイスは挑発するのブタブタのレビュー・感想・評価

4.0
豊田市美術館の『ボイス+パレルモ』展へ向けて鑑賞。
ヨーゼフ・ボイスは名前は知ってたけど正直作品、人物についてはそんなに知らなかった。
作品があんまり好みでなかったせいもあり。
ヨーゼフ・ボイスは芸術家であり音楽家、社会・政治活動家、教育者、革命家でアナーキストでユートピア論者。

大戦中は独逸空軍で無線オペレーターとしてスツーカ急降下爆撃機に乗り込んだという。
スツーカ!
スツーカと聞くと「戦車殺し(タンクキラー)」として恐れられたルーテル大佐の愛機であり連合軍からは急降下の時に発生する風切り音が「悪魔のラッパ」と恐れられたJu87スツーカ!
戦闘機もいいですが急降下爆撃機のその一撃必殺性は燃える!

そしてボイスの乗ったスツーカは撃墜されるも九死に一生を得る。
その時砂漠で遊牧民タタール人に救助されて介抱されたという。
全身に保温の為に脂を塗られ更に体温低下を防ぐ為にフェルトで身体を包まれた。
この体験がボイスの創作の重要なアイテム「脂」「フェルト」の元となった。
しかし之の体験について真相は不明であり創作である可能性が高いらしいですが。

「人間は誰しも芸術家である」

ボイスの思想の根幹とは物凄く陳腐な言い方になっちゃうけど人間は信じれば叶うって事なのでは。
「芸術」とは作品を部屋に飾っておく物ではなく「行動」「思想」「概念」「哲学」であり戦う為の「武器」でもある。
この資本主義社会は袋小路に入っており、其れを打破し次の「より良い世界」に向かう為には人間ひとりひとり皆がボイスと共に真の意味での「芸術家」になるより他ない。

でもそれは凄い難しくてほぼ不可能だと思う。
其れをやろうとした人はボイスだけでなく歴史上に何人もいた。
それはゲバラだったり三島由紀夫だったり。

ボイスの言う事はよく分かる。
シンプルでわかりやすい。
精神を進化させろって事だと思う。
自らの意志と力で。
『ガンダム』におけるニュータイプ論。
ホドロフスキー版『DUNE』では原作と違い主人公ポウルだけでなく人々皆が「I’mPaul!」と叫び救世主、超人間クイサッツハデラッハとなる。

スツーカに乗り東部戦線を戦い、そして撃墜されて生き延びたボイス。
この体験を語るボイス。
感じたのは、12日間意識不明だった事。
その間「タタール人」によるまるで「復活の儀式」を経て蘇った、即ち其れが『デッドマン』等に見る、一度死んだ人間がその土地の現地部族によって「復活」し超人となるのに似てる。
本来お話しの中の出来事をボイスは実際(?)に経験している。
戦地から帰ったボイスは芸術家に、のみならずあらゆる手段を行使して「世界」を変革しようとする。

「人間の原初の創造物は思考する事であり、それが彫刻であり芸術」

ボイスの芸術、その一つの象徴として生まれたのが、この社会そのものを彫刻するという概念「社会彫刻」

作品としては金属や石や木を掘ったり削ったりするのではなくて、熱で融ける「脂」熱の絶縁体である「フェルト」等を使って時間によって変化していく、熱エネルギーや常に流動する「運動」そのものを彫刻するという事。

人間の思考、世界を満たすエネルギー、それら目には見えない物を「思考」や「行為」により具現化する社会彫刻とは人間のイマジネーションによって世界そのものを変えるアクション。
其れこそがボイスの芸術(だと思う)

ボイスの政治活動。
「緑の党」筆頭候補者だったのに選挙で躍進した途端に党幹部達に切り捨てられるのが悲しい、というより寧ろ所詮こんな奴らはこんなもんか感。


水戸芸術館で2010年にボイスの展覧会やってた。
見に行きたかったです。
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