美醜や性別、国籍や民族の違いなどそれぞれに異なる可視化された条件によって、私達は日々自分達を取り巻く人間達を意識的にも無意識的にも差別しながら生きている。
そのような境界線をテーマにした作品らしく、主人公のティナの職業がデンマークとスウェーデンの間を行き来するフェリー場の税関職員=越境ルールを監視する立場、である事もまた象徴的であった。
ティナとヴォーレが同族である事を条件にお互いに惹かれ合った後に、終盤でティナがヴォーレとの「倫理観の違い」を理由に2人の間に初めて境界線を引く事に成功している。
これは例えば日本人である私達も同族という可視範囲内における共同体の中にありながらも、倫理観や考え方など不可視の条件を基準にお互いを差別しあったり遠ざけあったりする事と同じであると思う。
そう思うと私達は常に様々な形で見えない境界が絡み合った世界に生きているのだと思うと共に、自分とは異質であると認める相手にも心を開く寛容さが、今の世界にはもっと求められて良いのではないかという考えをもたらせてくれた。
北欧らしい暗く鬱屈した情景と演出がこの作品の寓話感をうまく醸し出していて印象的な映画だった。
ゴムっぽい質感の赤ちゃんとペニスの出具合はさすがにリアリティに欠けていたが、その代わりにティナとヴォーレを演じた俳優2人の特殊メイクがあまりによく出来ていたのには感心した。