にしやん

よこがおのにしやんのレビュー・感想・評価

よこがお(2019年製作の映画)
4.0
深田晃司監督のオリジナル脚本によるヒューマンサスペンスや。ある事件をきっかけに「無実の加害者」に貶められた女性の絶望と決意を描いてるわ。主演は「淵に立つ」の筒井真理子で勝負や。

この監督さん、とにかく何も悪いことをしてへんのに酷い目に遭う、人間の良識とは一切関係あれへんところにある理不尽さを描き続けてんな。そういう意味でいうと前々作の「淵に立つ」から繋がる映画や。前作の「海を駆ける」はちょっと違てて、理不尽といより不条理劇やな。地震は人間が引き起こす問題ではなく、人間を超越してるからな。

この映画、理不尽に巻き込まれることで、人間の本来は隠れてるところにある感情をゆっくりと剥き出しにしていくとこが、ほんまにえげつない。不穏というか、ホラーに近いな。タイトルの人間の「よこがお」が作り出す「二面性」、人間の表と裏、闇と光を鮮烈に浮かび上がらせていくわ。

物語自体は非常にシンプルやねんけど、構成を複雑にする事で映画を一気におもろいもんに引き上げてる。時系列で話を進めると回想は現実にとって説明でしかなくなるさかい、これではおもしくもなんともない。「火曜サスペンス劇場」になってまうわ。回想と現実の両方を本編のようにぶつかり合うように進めていく手腕は、そのぶつけ方含め見事としか言いようがない。主人公市子の「よこがお」を二つの方向から見てるような感覚にさせる効果があると同時に、それぞれのシーンや展開が別のシーンや展開のにヒントになるような工夫もされてて、何も考んと観てても引き込まれるようになっとる。

冒頭の掴みからして抜群やから、グッと映画に引き寄せれる。ちょっと仕掛けに対して見え透いててわざとらしいなと思うとこもあんねんけど、登場人物の醸し出す違和感を映画への興味の持続に変える技量は相変わらずや。それに、出来事が起こる前、出来事が起こってから、ストーリーの全体の方向や輪郭がはっきりしてからのそれぞれに違う種類のスリルがあって、とにかく観てるもんを惹き付け続けるわ。

筒井真理子が出ずっぱりやな。最初から最後まで彼女の独壇場や。まさに「筒井真理子劇場」。笑う真理子、泣く真理子、傷つく真理子、墜ちる真理子。喚く真理子。迷う真理子。決意する真理子。もう、真理子全部乗せ。わしは「立ち食い蕎麦屋」の真理子がお気に入りや。市川日実子も良かったな。無表情でいて不可解かつ複雑な内面を上手いこと演じてたわ。それになんと言うても池松壮亮。この人の中身何もないキャラの上手さといったらないわ。冒頭からして薄っぺらさ全開や。筒井真理子は別格として、脇のキャスティングもバッチリやな。

一つだけ文句があるとすれば、市子が鈍感でアホ過ぎるとこやろ。普通気づくやろと思うことも、全く気づいてへんように描いてるんはちょっと不自然というか違和感感じたかな。マスコミの描写もそう。わざとらしいというか逆にリアリティーに欠けるというか。それに、復讐の仕方かてあまりに単細胞過ぎへんか?もうちょっとやり方ないの?って。このあたりはちょっとだけ惜しい。

それにしても、終盤の畳み掛けてくるような展開のスリリングさといったら、ほんま堪らんな。ほんまハラハラドキドキ、緊張の連続やで。思わず、「これいつ解放されんねん?ええ加減赦してえな」って突っ込み入れてもたわ。

結末を救いと取るんか絶望と取るんかは解釈分かれるやろな。分かりやすいとこに着地せえへんとこもこの監督らしいわ。今回もちゃんとわし等を不安にさせてくれてる。あらためて、この人やっぱり上手いわ。傑作やな。
にしやん

にしやん