みかんぼうや

ヘルプ 〜心がつなぐストーリー〜のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

4.1
【非常に重い社会派テーマを絶妙なバランスのエンタメ性で観やすく描き上げる、人権分離法下のアメリカ南部、黒人差別における人間の“防衛本能”的同調圧力に立ち向かう女性たちの奮闘記】


天心VS武尊の世紀の一戦の興奮冷めやらぬまま走り書きレビュー!

本作、U-NEXTで以前よりマイリスト登録していて配信終了にあがっていたので観ましたが、期待していたよりもかなり面白く素晴らしい作品でした。

1960年代のジム・クロウ法(人権分離法)下で黒人差別意識が特に強いアメリカミシシッピ州において、一人の女性が黒人メイドの声を集め動き出す、という社会派映画で、本来であればとても重く苦しいテーマではあるのですが、見せ方として淡々とした“ドキュメンタリータッチ”ではなく、ドラマ性とエンタメ性を意識した映画的演出も多く、物語の中に超黒人差別主義者の絶対的悪女のビリーという役柄が出てくるなど、“半沢直樹的”な分かりやすい勧善懲悪の話になっているので、“とにかく辛くて息苦しい”とはならず観やすい。

かと言って過剰にドラマチックなエンタメ演出にもいき過ぎず、核心である差別に関する表現については、当時の黒人に対する酷い扱いや何よりも法の下で差別に対して声をあげること自体が身の危険をおよぼす、というあまりにも理不尽な状況がとてもよく伝わる丁寧な脚本で、バランスの良い表現だったと思います。黒人差別を題材にした映画でいうと、「グリーンブック」のようなテーマの重さとエンタメ性のバランス感がある作品でした。

しかし、ストーリーの幕切れは、その勧善懲悪性から想像していたものとは予想外の終わり方。ただ、本作の舞台設定が1960年代前半、そして本作が作られたのがその50年後の2011年、そして、ミネソタ州でジョージ・フロイドが射殺されブラック・ライブズ・マターのデモが激化したのがその約10年後の2020年。完全に消えることのない差別意識を考えると、この終わり方は個人的にとても納得感があり、映画としては好感が持てました(その結末そのものに好感を持ったということではなく)。

本作を観てもう一つ強く思ったこと。先日視聴した邦画の「あん」のレビューに「日本人は同調圧力に弱い」と書きましたが、そのレビュー内にも書いたとおり、やはり“日本人は”という表現は適当でなかったな、と。というのは、本作で登場する黒人差別にも、紛れもない“同調圧力”が見えるからです。「あん」では、その作風から同調圧力のシーンは敢えて直接的に表現していませんでしたが、本作はその作風の分かりやすさもあり、あからさまな“それ”が表現されています。しかも、タチが悪いことに地位が高く権力の強いものが圧力をかけるという(同調圧力は基本的にそういう要素が強いと思いますが)。

「あん」ではハンセン病、本作では黒人差別ですが、差別意識が当時あっという間に広がり、そして時代を経た今でも一部で根深く残り続けるのは、逆に自分たちが“異端”になり差別されないようにするための人間の持つ“防衛本能”によるものもかなり大きいのでしょう。

そういう意味でも、映画としてのエンタメ性はしっかり持ちつつも、差別意識やその根本にある同調圧力について、しっかり考えさせられる非常に良質な作品でした。
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