高みを目指すひとは、自分の底に向かって、深く深く潜ってゆく。彼にしかできない探し方だったのでしょう。他人の孤独だから美しく見えるのかもしれなくても、音楽を愛するひとすべて、あなたの指先を心でそっとなでていた。そしてあなたは、綺麗な苦い指で、あの頃いつでも何度でも、わたしたちをうっとりさせたのです。今日は、あなたを思い出す夜にします。
あなたの、自分の内面への勇敢な旅の終わりはどこだったのでしょうか。たどり着いた場所に寒い北風が吹き荒れていないことを祈るばかりです。でもどんなに寂しい場所だったとしても、いえ、むしろ寂しい場所だったならなおさら、あなたは絶対にうつくしいピアノを見つける。あなたの音楽があれば、もう次に来るひとは怖くない。一緒にひとりになって、やわらかい旋律に横たわろう。素敵な音楽と抱き合って、今夜はあのとき流したかった涙があふれてくる。壊してしまいたい現実。握りつぶす手の痛み。もう戻せない時間。
遠い夕焼けはもう思い出せないけれど、それでもいいやと思えます。ワルツの音楽が心地よい、あたたかい夜の隣で。
