『男はつらいよ』、第13作目。
なんか今回はいつもの冒頭の寅さんの夢から、地続きのおいちゃんの夢の話から、すんなり帰ってきた寅さんの雰囲気と言葉の端々から、、、寅さんの“ご縁”の話がチラつく。
今回は恐ろしく快調で、摩擦が起きない穏やかな団子屋への凱旋。
「ちょっと夜汽車で疲れたから2〜3時間、上で休ませてもらうわ。夜はタコとひろしも呼んでおいてくれよ、、、“重大発表”もあるしな。」
おいおい、ついに来たか。ついに来たか、この時が。寅さんの年貢の納め時か。
団子屋連中、寅さんから話を聞く前からざわざわざわざわ。そして、寅さんの縁談の気配がどんどん漏れて柴又に風を吹かす。
「だから、お前たちに良い人かどうか見てもらった上で考えたいの!って言ってんの!」
、、、、順調な滑り出しは何処へやら。
結局、恋してるだけ。縁談まで秒読みまで話が進んでるかと思いきや、さすが寅さん、裏切らない。
ただ、それなりに望みはあるぞと、仕事のついでのタコ社長とさくらを連れ立ってわざわざ寅さんが出先であったその彼女に会いに行く、、、会いに行ったら恐るべき瞬殺、さすが寅さん、裏切らない。
子持ちの女性と聞いてそう簡単にいかないような気はしたが。
「おにいちゃん、良かったわね」
「あぁ、良かったな」
寅さん、その足でまた新たな旅へ。
そして、来た、キタ、また来た。嬉しい。美しい。2度目の、、、小百合ちゃん、吉永小百合。
やっぱりめちゃくちゃ綺麗。奥ゆかしさとナチュラルな微笑みと佇まい。さらに大人びて、、、素敵。素敵過ぎる。
旅先でまさかの再会。
嬉しい再会もほどほどに。なぜだが浮かない表情の歌子。
前回、寅さんが失恋した先に歌子が結ばれた旦那がまさかの他界。
それを聞いた寅さん、恋やつれ。
歌子のことが心配で心配で。旅先で別れた後も心配で心配で。
すったもんだのヤキモキの果てに、別れ際に発した「何かあったら葛飾柴又の団子屋においでよ!」。これが現実になる。
夫に先立たれ、実家を飛び出し、再び東京に舞い戻ってきた歌子。
東京にいる父親とも仲違いしており、もはや天涯孤独の未亡人となってしまった歌子が、寅さんと一つ屋根の下の団子屋に仮住まいで新たな門出の職探しに奔走。
そんなこんなで、今回は、団子屋から始まり、島根に行き、津和野に渡り、団子屋に戻り、東京の青山やら銀座やら。
日本のあちこちから東京の中心まで。
ここまで12作観てきて、いよいよ『男はつらいよ』の舞台の形が少し広がっていくような気がした。
もちろん、いつもの面々がいて、2度目の吉永小百合の歌子がいて、2度目の頑固な歌子の父親がいて。
嬉しいけど2度目の吉永小百合とは何事かと思ってたら、ここまでの寅さんの出会いと別れの繰り返しが。
この積み重ねの先で再び出会い、少しの間それぞれの道を歩んできた道のりを話しながら、労わりながら。
今日も涙の日が落ちる。
今回は寅さんと歌子の恋路がどうとかのおちゃらけた話ではなく、歌子と父親と、寅さんと団子屋連中の絆。
歌子にしろ、寅さんにしろ、真っ直ぐ頑固で。
歌子の父にしろ、団子屋連中にしろ、言葉にせずとも帰りを待ち侘び、元気でやってるかと心配し、帰ってくればやんややんやと言いながら迎えて入れる。
いつでも戻ってこれる家があるからこそ好きに出て行ける。
出ていくやつが戻ってくるから、そこに根を下ろす甲斐がある。
このシリーズを観ていると、すっかりそれを当たり前だと思い込んでしまうが、今回はそれがどんなに素晴らしいことかを思い出させてくれた。
とてもハートウォーミングな回だった。
そして、騒がしくけたたましく、頭よりも体が先に動く寅さんの後ろで、さくらもそっと優しくあれこれあちこち動く。
この兄弟の絆というのか、2人で1つのような。
ほとんどが兄の尻拭いと心配からくる世話焼きではあるけれど、いつもそこにすっと手を差し伸べ、勢いで圧倒する兄に突き飛ばされても諦めないさくら。
何度も言うけど、このさくらと、団子屋と、寅さんが大好き。
自分のわがまま、感情を胸にしまい、歌子の再起を願い、背中を押す。
どうせおいらはヤクザな兄貴、わかっちゃいるんだ妹よ。
今回も心が温まる賑やかで素敵な日常だった。
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