突然聖地ラサへ巡礼の旅に出ると言い出した妻。
五体投地（両手・両膝・額を地面に投げ伏して祈る、仏教でもっとも丁寧な礼拝の方法）でラサへ行くには半年以上はかかるというのに。
やがて夫は、妻の体に起きていること、そして巡礼をする本当の理由を知る。
母に会いにきた前夫の息子ノルウとともに家族の旅が始まった。
ただただ妻の身を案じて寄り添っていた夫の、ふとした瞬間に吹き出す嫉妬の感情。
再婚した母と一緒に暮らせなかった息子の怒りと悲しみ。
感情が複雑に絡み合いながら、やがて母の願いはふたりの願いとなった。
「草原の河」と同様、今作も“家族”がテーマではあるけれど、困難に遭遇した彼らを助ける家族（ジンパ兄貴の登場にテンションアップ！）が象徴しているように、チベット仏教の教え「自己愛を捨てて他者を慈しむ」が作品の重要な基盤となっていると思う。
物言わぬチベットの山々がいつでもふたりを見守っていた。
優しさと切なさに胸がつまるラストは、信仰とともに生きることはすなわち愛であるということをしみじみと教えてくれる。
本当にいい作品だった。
主演のヨンジョンジャさんは有名な歌手だそうで。
今作が初演技というのが驚き。
