医師のリケは休暇を取り、1人でジブラルタルからアセンション島を巡るセーリングの旅に出る。その最中彼女は大きな嵐に遭遇するが、これを無事に乗り切った。しかし翌朝、リケはトロール船が漂流し、多数の人々が救いを求めているのを目にする…というあらすじ。残念ながら日本公開はされておらず、国内では見ることができない。
人の命がかかっている緊急事態に直面した時、個人はどこまで関与すべきなのだろうか。リケは勇敢な決断を下し、人として非常に立派な行動に出た。しかし彼女が助けた少年の身勝手な言動を見ていると、最後まで責任を持てないのなら、最初から関わるべきではないとすら思えてくる。
本作は人間の良心と責任とを天秤にかけ、どちらが正しいのかを問いかけ続ける。その揺さぶりが与えるストレスは尋常ではない。セリフのほとんどない1人芝居に近い作品であるにも関わらず、緊張の糸が途切れることなく続き、弛緩する瞬間が全くない。
また、作中の出来事は、世界中で起きている事件の理不尽な構造の縮図に感じられる。当事者がどんなに努力し働きかけようと、どうするかを決めるのは客観的に見ていた第三者でしかない。彼らは彼らのルールに則り、粛々と事を運ぶだけだ。そして、その無慈悲な決定に当事者は一生消えない心の傷を負う。
わずか90分のワンシチュエーションで、1個人の感情の揺れ動きから社会的なテーマへの問いかけまで、さまざまな要素を見事に描き切っている力作だ。日本公開されていないのが本当に惜しまれる。
⚫︎トマトメーター
・批評家支持率:93%
・観客支持率 :66%
「スザンネ・ウルフの力強い演技に支えられた本作は、人類と自然の戦いを挑発的に描き、我々の最高の武器が思いやりであることを主張している。」