ぽん

ミッドサマーのぽんのネタバレレビュー・内容・結末

ミッドサマー(2019年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

何かと気遣いが必要な今日この頃。政治的にも文化的にも問題なく恐怖の対象(=敵)に出来るのがゾンビだと思う。昨今のソンビ映画の興隆はそういうことではないだろうか。でも、もうちょっとリアリティが欲しい、本当に怖いのは人間なんだみたいな深淵さも加えたい、ってなった時に調度良いのがカルト。そういうホラー界の便利グッズ的?なカルト世界で思う存分、遊び尽くしたって感じがするのがこの「ミッドサマー」だ。

カルト集団に惨殺される若者という定番っぽい体裁になっているけど、スラッシャー描写にはそれほど注力していない。それよりは村自体の狂った様子を延々と見せつけられるトリップ体験の方がメインなんですよね。

雰囲気が似ている「ウィッカーマン」(1973)だと、主人公は敬虔なクリスチャンで一つの世界観しか持っておらず、異教に対しては拒絶反応しか無い。でも本作の場合はヒロインの仲間たちは論文執筆のためということもあるが、すごく冷静でフラットに見ている。今どきの若者は、この世界には自分の理解の及ばない文化も存在していて、それらも尊重されるべきものと弁えている。そんな訳知り顔の“相対主義”が手痛いしっぺ返しを食らう、というところに本作の切れ味の鋭さを感じる。哲学者のマルクス・ガブリエルが、世界レベルで共有できるモラルの構築が必要だ、なんて言うのも分かる気がするのだ。ポストモダンの時代がいよいよ揺り戻しに入ったのかもしれないなんて思ったり。

で、この恐怖譚の真骨頂がラスト。ヒロインがこの狂った村で自分の居場所を獲得してしまうと。幸福の絶対値なんてなくてそれは自分自身が決めるもの、と常々思ってはいるが、じゃあこんなのもアリですか?と問われているようでけっこうダメージくらった。
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