今までの人生で二番目に辛く苦しい映画体験だった。
怖くて不気味で見ているのが苦しいのに、何故か笑ってしまうのは何故だろう。滑稽さと残忍さは、案外背中合わせなのかも知れない。
「みんなが不安になればいいな」という素敵すぎるコンセプトで、アリ・アスター監督が打ち出した2020年上半期最高期待作、『ミッドサマー』。情報公開当時からずっと思い焦がれてついに鑑賞できた。この喜びは、正直一生ものだと思う。
朝一の上映ということもあり、同じ時間を共有するお客さんのマナーもよく、周りに恵まれた良い環境で鑑賞でき、大変ありがたい。
肝心の内容は、マイルドに言えば、「本当の家族に出会う御伽噺」。
主人公のダニーは、きっと、植物と呼応する自然の力を潜在的に秘めた女性なのだろう。鑑賞中、ダニーのそばの植物が息づいているような錯覚が起こって、見間違いかな?と幾度も思った。見間違いじゃなかった。
息苦しい都会からホルガの村を訪れ、戸惑い、苦しみ、パニックに陥りながらも、徐々にそれを乗り越え、村の喜怒哀楽に同調し始めていく彼女の姿は、まさに御伽噺の主人公のよう。部分的に見ると醜悪な物語ではあるけど、大半は儀式的な、清浄な気配を感じた。まさかこの二つの感覚が、一つの映画に同居するとは思わなかった。
メインのストーリーには、土着信仰にマレビト信仰などの要素も散見されたように思う。専門家じゃないので詳しいことは全くわからないが、「見るな、入るな、触れるな」といった、民俗学的ホラー要素が大好物なのでめちゃくちゃ楽しかった……好き……色々調べてみたらマレビト信仰って日本以外にもあるんだな、すっごい気になる。個人的に調べてみよう。
花が咲き、緑が萌え、空は澄み渡る青空。おおよそホラー展開になり得ないシチュエーションから、見事なまでに舵を切っていく監督の手腕に圧倒されて、終始画面から目が離せなかった。グロいシーンもあるのに、何故か目を逸らそうと思えなかった。
そして『ヘレディタリー』と同様、「精神限界」の4文字がしょっぱなからずっとグルグルしていた。もう勘弁してつかあさい。もう画面に映る全ての展開が不穏すぎて、しかもその予感が的中しまくるもんだからもう大変。ホラー慣れしてない人が見たら気が狂って死にます。それか性癖が歪む。わけもなく、心の底から叫びたくなった映画は久しぶりだわ。
夏至祭についてちょっと調べてみました。中央のアレはメイポール。男性器を模したシンボルらしい。あっ(察し)
農作物の収穫や子孫の繁栄を祝い、世界から大勢の観光客が訪れているらしい。ニシンを食べたり、スペアリブやジャガイモを食べたり、メイポール囲んで踊ったり、当然だけどまるきり創作ではなくて、実際のお祭りをなぞってる形なのね。アリ・アスター監督のリサーチ力がすごい。是非とも日本のお祭りを題材にして映画を作ってほしいものだ。
公式サイトに答え合わせが載っているそうで、そちらも見てみようね。
ちょっと気になったのが一点あるとすれば、モザイク処理してR15にするくらいなら、全部見せてR18にしてくれてよかったのに。どうせこんなの大人しか見ようと思わないよ……。
映画館を出て見上げた空が、久々の快晴でゾッとした。しばらくは青空が嫌いになりそう。