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淪落の人/みじめな人のditaのレビュー・感想・評価

淪落の人/みじめな人(2018年製作の映画)
5.0
@ シネ・ヌーヴォX   

今年暫定ベスト。優しさがスクリーンから溢れ出すたびに何度も何度も泣いた。映画って色々なかたちや表現方法があるけど、やっぱり人を、そして人の心を描いてこそだと思うし、こういう映画に出会えると生きていてよかったと心から思う。

半身不随の男と外国から来た家政婦が心を通わせ夢を追う、というひとつ間違えれば○時間テレビの「障害を持った人が困難に立ち向かう系のドラマ」になってしまうようなお話なのに、作った人も出ている人も、役の中の人物も、生きづらさや強さ弱さの押し売りをすることなく、ただみんながみんなに優しかった。そして、その優しさを信じる心で映画が埋め尽くされていた。

寝る前に「今日も生きた、明日また生きよう」と自分に言い聞かせて早十数年、人生において夢なんていうオプションを追うなんて贅沢はできなかったし、じっさいただ毎日息をして暮らすだけで精一杯だ。人は疑え、誰も信じるなと自分に言い聞かせてきた。でも、この映画を観ている間はとめどなく流れる涙と鼻水を止めることすら忘れて彼らのことを信じ続け、彼らの夢を一緒に追い続けた。自分の心の中にこんなに素直に染みてくる映画はほんとうに久しぶりだった。

夢を持つこと、実現させることはなかなか難しいし、かといってdreamgiverになれるかといえばそう簡単にはいかない。ただ「人に優しくする」ことすらなかなか難しいと思う。でも、きっと「優しさを信じる心」は持つことができる。わかってあげよう、助けてあげようなんて大げさな気持ちはいらない。あの人ができないことでわたしができることがあれば手伝う、優しくされたらその気持ちを素直に信じ、無理のない範囲で優しさを返す。ただそれだけでいい。顔も知らない誰かの、ことばの通じないあの人の、そして隣にいるあなたの優しさを信じることこそ、このぎすぎすした人間社会、争いが絶えないこの世の中でいちばん大切なものなのだと思った。

最後に、この映画を観終わって思い出したことばを記します。

人間は生き、
人間は堕ちる。
そのこと以外に、
人間を救う便利な近道はない。
(坂口安吾「堕落論」より)

「淪落」とは、おちぶれること。また、堕落すること。らしい。
わたしはこれからもきっと何度も堕ちる。でも、もう絶望することはない。堕ちた場所から見える景色は天上から見る景色よりも優しく美しいとこの映画が教えてくれたから。クソありがとう。すばらしかった。ほんとうに。
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