雷電五郎

TENET テネットの雷電五郎のレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
4.0
インターステラーやインセプションにも増して分かりにくい時間逆行の仕組みが物語の時系列をややこしくしているストーリー展開、もう最初はノリで観るしかありません。つまり、どういうことだってばよ?の千連発でなんとなく分かるけど、それはそれとして時系列を整理する時間がほしいと切実に思いました。

まだ整理できてない!先に行かないで!みたいな気持ちで観てると段々「うん、なんとなく分かるでラストまで行くしかねぇな!」って開き直りの気持ちになりますね。清々しい。ここまで開き直るしかない怒涛の時系列爆弾、いっそ清々しいです。諦めがつけやすいです。

話はシンプル。
要するに現代人が資源や環境使い潰して未来に生きる人々の反感を買って、過去の人間を滅ぼそうとしている勢力とそれを防ごうとしている勢力の戦いです。珍しいのはその未来人が直接介入してくるのではなく、ある程度のテクノロジーを与えて現代人を動かすことに徹しているところ。

実に効率的です。未来人に渡したいものがあれば現在軸で特定の場所に埋めるなり隠すなりしてそのポイントの記録を残せば未来人はすぐにもでも手に入れられる。だから、電子、紙、あらゆる媒体において情報を残せば現在軸の人間には必然的に不利に働くという訳。ややこしいようで理路整然としてます。

他に類を見ない映像体験の凄さは言うまでもないですが、シンプルな世界存亡をかけた戦いをこんなにややこしい設定に落としこみ、細かい伏線やネタを綺麗にたたんでみせる脳内アハ体験みたいな映画を作れるのは本当にクリストファー・ノーランだけだと思います。最初の段階で点をばらまくのがまずうまい。ばらまいた点は分散して見てると関係ないように感じるのに話が進んで線で点と点が繋がってゆく程にすべてのシーンが無関係でなかったことが理解できるという考えるより作品の情報量に身を任せてラストに押し流されてくのが気持ちいい映画です。

逆行の話聞いても「?」だし、逆行実演されても「?」だし「なるほど。さっぱり分からん」て感じで観てましたが話は分かるので、もうここまで難解な設定は理解しようとする必要ないです。何回も観ないと無理です。そういうもんなんだ!で観た方がいいかもしれません。それでも、面白いと思える映画を作るあたりノーラン監督はやはりすごい。

世界存亡をかけて未来に生きる人々が、過去を滅ぼしたい勢力vs過去を滅ぼせば世界が滅ぶから止めたい勢力が現代の人間に指示を与えて戦わせてるって話が分かれば(これも充分ややこしい話なんですけど)後は演出と展開の魅せ方な訳ですが、それが抜群にうまいのがノーラン監督でもあるので、理解より先に魅力で惹き込まれますね。

個人的にニールはマックスじゃないかと思うんですけど、どうなんだろう。名もなき男が義父だったから命がけで助けたのでは、なんて思ったんですけどこれも先にニールの結末を見せておいて「起きたことは変わらない(変えられない)」って言わせるの意地悪で心にくいなぁと。
セイターが世界滅ぼしたいのも「もし、お前が私のものでないなら誰のものにもさせない」が答えでしょう。
頭の回る登場人物が理性ではなく根底では感情に振り回される、とことん人間でしかない部分を持ち合わせてるのが好きです。

面白かったー!面白かったけど、時系列表作らないと名もなき男とニールの行動がなんとなくでしか分からないですね、さすがに(笑)ラストのアルゴリズム奪取作戦はもう考えるのを放棄してました(笑)

起きた事象の結果は変えられないけど、過程は変えられるっていうのが、過程の部分が時間による変化であって、過程の変化で生じる結果にも変化はあるけど、この世界に発生した事象としての存在は消せないから事象が引き起こした結果は存在し続ける、ということなんですかね。

人間の起こした行動によって滅びも救われもする、ここまでならば今までもたくさんの作品で描かれてきたことですが、行動の延長にラッキーな偶然はあっても奇跡はない、というある意味突き放した現実主義を徹底しているのもすごいです。
滅ぼすのも救うのも、すべては行動を起こした人間のもたらした結果であって、それは祈りによって覆ることはない。法則によって均衡を保つ世界の中で、法則を利用することでしたたかに立ち回る人間のずるさや賢しさをあくまでも理知的に描写しているところに、監督の波立たない情念のようなものを感じる作品でした。
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