Vigoculture

TENET テネットのVigocultureのレビュー・感想・評価

TENET テネット(2020年製作の映画)
5.0
2回見て納得の面白さ。むしろ1回目は多幸感と楽しさだけで面白さは少なかったけど、解説を見て2回目見たら何をしているのか理解できて面白かった。

予告でやってる「ワンダーウーマン新作」や「DUNE」が古臭く感じるほど、SFとして新しいアイデアと映像を見せてくれているだけでも満点。(DUNEはDUNEで楽しみ)

「結果」を変えるために「原因」を変えに時間を遡るのではなく、「結果」を変えないために「原因」を作りにいく という点が自然の理と違いすぎて、そもそもスッと入ってこない。それにただただ翻弄されていた1回目は時間軸も全く理解できず面白くなかったんですが、2回目は文字通り「結果が分かった状態でその原因を観る体験」。まるで”逆行”しているかのような感覚で観られるので、2回目、3回目が面白くなるというのはとてもとても納得できました。

難解さと映像の凄さの感想は一旦置いておいて、

2回目見て冷静に感じられたココがイイ!一押しポイント↓

――――――――――
①スパイサスペンスを忘れていない
主人公の役名は「名もなき男(just主人公)」。秘密組織TENETの一員となった主人公は常に「無知は武器」の名のもと、目的がわからないミッションに翻弄されながら、目的を見つけるためのミッションを続けていく。あらゆる出来事の黒幕(主役)は誰なのか。そこがわからずに混乱し続ける主人公に沿って観客も翻弄され続けます。そして最後に明かされる「主役」とは。この明かし方も最高にクールで、上質なスパイサスペンスでした。

②きちんと提示される時間に対するメッセージ
すでに起こった結果の原因を起こすために行動していく物語なので、「起こったことは仕方がない」という決定論的≒運命的な考え方に支配されるのがある意味では自然な感覚(ニール)。
そして、起こってしまった未来がわかっているなら神に祈ることの意味はあるのか?神の不在を感じずにはいられない(セイター)。

このあたりのテーマが、物語の最終盤で主人公⇔セイターやニールとの会話で若干無理やりに織り込まれています。
そしてニールが監督の考えを代弁しています。
「起こったことは仕方がない。でも、それが何もしない理由にはならない。」
非常に希望に満ちた言葉で、個人的にはこの考え方には大賛成ですし、ノーランに感じていたスーパー中二病っぷりがスッと腹落ちしました。実は彼とてもとてもジャンプの主人公的な考え方なんだなと。
でこの考え方、このセリフ、僕の大好きな映画である「メッセージ」の最後でも同じように語られていて、結構影響を受けたのかも?と。
「メッセージ」のラストと同様に”時間と人間の意志/行動”をテーマにした大好きな映画になりました。

③最高のバディもの
序盤から行動を共にしたニールと見せる最高のコンビネーション。
これがなにより、2回目見た時にずーっとイイんですよ。
こちらとしては結果が分かっている中で観ているお互いの会話(特にニールのセリフ)。
ニールは全てを知っているから、主人公とも基本的には衝突しない。何も明かさないけど、ぶつからないというのが観ていてなんとも心地いい。
途中の船でなされるさりげない会話もそうで、
「君を消さなきゃいけない可能性もある。」「あなたにならいいかな。」
この冗談が、1回目はただのジョークだと思ってたけど、2回目見ると趣が違いますよね。

そして最後の最後も切ないだけでなくきちんと希望のあるセリフもあって、別れを知って主人公が泣きそうになっているときの、
「あなたとの出会いを楽しみにしている。」(うろ覚え)
ゾワっとするほど感動しました。

主人公も、おそらく観客もこの1,2分間は、笑っているニールを観ながら「この後ニールは死ににいく」という考えに支配されている時間なんですが、よく思えば、ニールは過去で死ぬのであって、主人公はこの後の未来(もしくは逆行した大過去)でニールと出会い、仲間になるわけです。
この切なさと希望が同居した展開こそ、SFとしての「時間が一方向ではない」というコンセプトを、人間ドラマとして美しく表した瞬間だと感じました。


――――――
・その他
てっきりまだ見ぬ敵としての未来人(自分たちの子孫)との”戦争”かと思いきや、「地球資源を食いつぶした我々のせいで、未来人は逆行するしかなくなった」というのも、”悪”ではないのが良い落としどころでした。(セイターはクズやけど)

映像はいつも通りとにかく中二病ノーランの「これカッコいいやろドヤッ!」の連続なんですが、それを形にしていまうのが恐ろしいところ。そしてそれがイイ!
「プレステージ」の難解さを纏った「インセプション」的スパイアクションに「インターステラー」の時間と愛のテーマを添えて、「ダンケルク」の没入感で見せる。
ノーランの監督魂ここに極まれりで、そこにホイテヴァンホイテマの画作りも相まって、さらにさらに、「鼓舞する音楽」大得意なルドヴィグゴランソン(「クリード」「ブラックパンサー」大好きなんで)がハンスジマー要素盛り盛り音楽で盛り上げる最高の映画体験でした。

そして、コロナのおかげで1席あけてゆったり見れる劇場、最高です。

ノーランの裏テーマは
映画の興収あげるためにマーケティングを必死にやっている人間たちをIMAXカメラでどついて回ること。
「1回では理解しようのない物語を、誰もが観たくなる/だれが見ても楽しめるド派手な映像スケールで見せつけたったらええねん」
結果、他に大作がないこの時期に2回以上観る価値のある映画があるおかげで興収が上がる。天才。

ちなみにTENETのCMのぺこぱ出演Ver.めちゃくちゃよく出来てるんでYouTubeで観てほしい。
Vigoculture

Vigoculture