真田ピロシキ

イップ・マン 完結の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

イップ・マン 完結(2019年製作の映画)
3.1
4作目にして創意が尽きたのかと思うような映画でした。愛弟子でアメリカで飛ぶ鳥を落とす勢いのブルース・リーから招待を受けて空手大会の観戦に訪れたイップ・マン。実はイップ・マンは癌に罹っていて香港で退学処分になった息子の留学先を探すのが目的なのだが、中国人がアメリカで活動するには華人協会の推薦が必要でその会長が太極拳のワン師匠。ワン師匠らはブルースが西洋人にも中国武術を教えているのが許せなくて、その師匠であるイップ・マンと回転テーブルを使った小競り合いを繰り広げるのだがこれがデジャブで2作目にもこんな感じのシーンなかっただろうか。

華人協会に紹介状を拒否されたイップ・マンは古馴染みのツテを頼りにするも返ってきた言葉は中国人は犯罪者みたいな偏見に満ちたもので、本作の中国移民が受けている境遇を通して現代のアメリカの姿を連想させられる。その視点は良いと思うのだけど映画としては先に書いた事以外でも焼き直しが否めなくて、ブルースの弟子である海兵隊のハートマン軍曹(フルメタル・ジャケットではない)が中国武術を海兵隊に取り入れようとして頑なに拒否されるのだが、その悪い海兵隊が使うのが空手で剥き出しの差別心は1作目の日本軍そのもの。中秋節でそれなりの強さの師匠達が次々と倒され満を持してイップ・マン登場の流れも相手は日本軍ではなかったが1作目にあった流れと同じ。それにしてもウィルソン・イップという人は空手嫌いなんですかね。

また一度手合わせするも決着が付かなかったワン師匠が差別主義者のバートン軍曹に殺されこそしないものの徹底的にやられてイップ・マンが挑むのも2作目のサモ・ハンと類似した構図。このシリーズ、3作目はちょっと忘れてるけど誰かの恨みのために戦う事が多くない?最後くらいは武術家同士で純粋に技を競う話が見たかったんだけどなあ。ワン師匠には勝って欲しかった。それと一見大きなテーマを取り上げているけれど、ワン師匠が狙われた発端はその娘へ対するモンスターペアレント案件なので真面目に考えるとなんだかステイサムの最高な映画『バトルフロント』みたいに思える。

ただスコット・アドキンス演じるバートン軍曹は相手としてはかなり強そうに感じた。イップ・マンが病身な上に衰えているのもあるが腕をへし折ろうとしたり相当肉薄してて同じ空手家でも三浦さんの比ではない。連打にも耐える。対するイップ・マンは目突き、金的、喉突きと容赦のない急所攻撃をしてて歴代で一番マジになってるのではと思わされる。そういう意味ではシリーズ最後の相手としては役割を立派に果たせているのかもしれない。それとブルース・リーを演じる役者は気合いの入ったブルース・リー俳優だけあってアクションも見応えあって、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の扱いに立腹した人はこの映画見ると鬱憤を晴らせるかと思います。物語の後半、自分を冷遇していた華人協会に謝罪されると気にしてないと答える器の大きさも描かれてて良いですよ。