えむ

9人の翻訳家 囚われたベストセラーのえむのレビュー・感想・評価

4.0
面白かった!!
スリラーってくくりになってるけど、これはジャンルとしてはミステリーですね。

世界的ベストセラーの新作を発表するために、あちこちから9人の翻訳家が選ばれ、情報漏洩を避けるためとある屋敷の地下で監視をされながら翻訳作業を進めていく。
原稿も一日に翻訳する分しか渡されず、携帯もネットも外部との連絡手段も閉ざされる徹底ぶり。

実に密室ミステリーらしいお膳立てと物々しい雰囲気で、さあこれからこの中で事件が起こるのかという雰囲気は満点。

冒頭からは、原稿流出犯人と対峙して、何故お前には犯行が可能だったのか、手口はなんだと問い詰める社長のシーンに、実際の密室内での出来事が挿し挟まれるような構造になっているのだけど

私は全くあらすじをチェックせず大前提を知らずに観たので、実際に事件が起こるまで、この社長の時系列が三部作の前作までの過去のことだったのか、ここで訳しているものがいよいよ翻訳が終わって出版する直前なのかセリフだけではわからなかったり、そういう部分でも謎がずっとヒタヒタと漂っている感じ。

(以前流出があったから、今回こんなにやりすぎ感のある徹底軟禁監視なのかと取れなくもない)

伏線はってはって、最後にドーンと回収するようなわかりやすいつくりではなく、このような『どっちとも取れる』的なミスリードの多い曖昧さのある描き方に翻弄されつつ、時に思い込みをひっくり返されたりしながら、最後まで楽しめます。飽きないで観られる。

ただ、その手の曖昧な部分の多さが謎解き要素としては狡いと思うミステリファンはいるだろうから(明確なネタをばらまいて堂々と論理的に推理させる本格推理が好きな人とかね)、その点でスリラーって括りにしたのかなとも思います。

密室で事件が起こってお互いを疑いあっていくとか、1人ずつの翻訳家の個性的さ、流出犯にお金を払いたくない社長の暴君っぷりとか(自分の性格の悪さ分かってないのがもう)、結構登場人物の書き込み方感やストーリーの骨格は、多分クリスティ作品を念頭において脚本書いたかなーって感じがする。
9人の翻訳家ってとこからして、もしかしてって思ってたけどさ。
作家さんがクリスティ好きなんでしょうね。
私も好きなんで、またそういう所でも楽しかったです。


あーでも黒幕はあの人かな、とかまでは思ったけど、さらに、やられたー!笑
ほんとよく出来てる。
えむ

えむ