このレビューはネタバレを含みます
幼い頃、月の女神の使者である少女と出会い、時空を超える冒険の旅をした老女の回想。少女二人は仲良くならんで旅の本を覗き、冒険旅行へと向かう。それは『ピクニックatハンギング・ロック』の少女たちがさまよい込んだのと同じ世界だ、とジャン・ローランは語る。覗き見る本の中の冒険はハリウッド古典映画の輝かしい銀幕の冒険になり、やがてローラン自身が過去に撮った怪奇映画やアクション映画でのさまざまな冒険を経て、今またニューヨークで新しい冒険が始まる。約束したのは月の女神。月の女神は映画の女神でもあったのが分かる。
が、旅の世界から帰還したのは老女だけであった。老女は孤独を生きるしかない。そこに月の女神であろう女が踊りとともに現れ、老女を冒険の原点である懐かしい浜辺へと連れて行く。そこにはかつて一緒に冒険をした少女が年老いた姿で待っていた。ふたりの老女は喜びの中、帰ることのない永遠の黄泉の世界へと旅立っていく。
ローランが創作の源泉を語った美しい中編である。