天豆てんまめ

パラサイト 半地下の家族の天豆てんまめのレビュー・感想・評価

パラサイト 半地下の家族(2019年製作の映画)
4.6
映画「パラサイト 半地下の家族」が現実を侵食したコロナ共生時代

https://note.com/qone0205/n/n1729774eaeca


みんな仲良く豊かな人生を送りたい。

昔はそうできると思っていた。

頑張れば何とかなるって、信じていた。




こんな映画は見たことがない。

途轍もない映画で心底ゾクゾクした。

大笑いさせられた次の瞬間

ゾッとして背筋が凍りつく。

その繰り返しがたまらなく快感で今も尚

その感覚が身体に沁みついて離れない。

面白すぎて

のめり込んで

気がつくとこの映画は現実を凌駕し、侵食し、変容してしまうくらいの力がある。

そんな映画に出会えた幸せに震える。

やっぱり映画って凄い。

それ以上に恐ろしい。

ポン・ジュノ監督はおぞましい程の完璧主義者だ。

脚本、映像、音響、演技が緻密に計算され

どのシーン、どのカットにもずっと不協和音に晒される。

映画としての隙のない完成度は見た者を圧倒し、疲弊させる。

でも高揚感はおさまらない。

もうそろそろアカデミー賞ノミネート作品が発表されるが

これから更にこの映画の凄みを世界中が目撃することとなるだろう。

低所得家族の半地下のアパート。

富裕層の超高級住宅。

ほぼこの2つを舞台に逃げ場は一切ない。

特に大雨が高級住宅街の山の手から

貧困極まる半地下へ雪崩のように襲い

洪水のように流れ落ちるシーンは圧巻。

そして、どのキャストも完璧だ。

ソン・ガンホは期待通り素晴らしいがその子どもたちが凄い。

ギウとギジョン。

自分たちの無垢な企みが予想だにしない展開を巻き起こしていく。

特に妹のギジョン(ジェシカ)は最高の存在感。

彼女が便器の上で煙草を燻らすシーンの映画的美しさ。

彼らはずるくしたたかで逞しく

しかも哀しい。

彼らに侵食される富裕家族の

奥様役のチョ・ヨンギョは

以前からゾッとする程美しい女優さんだなと思っていた。

絶品の美貌と悪意なき邪心。

そして

天然の愚かさとエロスを醸しつつ

コメディエンヌ才能を見せつけて目が離せない。

今、韓国で主演女優賞レースを席巻しているのも納得だ。

富裕IT社長とソンガンホが対峙する。

一線は越えるな、の言葉と

臭いのモチーフが観るものを抉っていく。

きっと単なる鑑賞ではなく

初めて味わう体験をすることになるだろう。

そして

この映画は劇場を出ても終わらない。

はい、これは私たちの現実でもあるのです。

映画では終わらせてくれないのです。




あの半地下よりはだいぶまし。


あんな金持ちにはなりたくない。




と他人事として突き放すことはできないのです。




学生時代から月日が過ぎて

気軽に、そして堂々と

高校や大学の同窓会に行ける人は

何割くらいいるのだろうか?

水面下では同じクラスだった友人が

5倍から下手すると

10倍以上の年収差があるのが常だ。

誰も口には出さないけれど

じっと心の奥底で生活格差を見定めている。

また子どもが私立大学に行ったら

1人当たり約1000万円程度はかかってしまう。

中学高校も含めれば遥かに超えてしまう。

どの家庭でも安々と行ける時代だろうか。

韓国では所得の上位2割の世帯月収が約90万円。

下位20%は平均13万円と言われているが、

日本も近づいていくのだろう。

会社の同僚で仲がいい韓国人がいて

彼は韓国有数の電荷メーカーの会長の息子なのに

アニメが好き過ぎて

親の仕事を継がず日本でゲームクリエイターとなり

過酷な労働条件と低賃金に疲れ果て転職してきた。

でも正直、部署で一番仕事できてハングリー精神もハンパない。

「いやあ、日本のクリエイティブ産業の方が韓国より厳しいと思う」

と彼はぽつりと呟いた。

英国や韓国のように格差社会がはっきり示されているよりも

日本の方が同調意識に目を逸されながらも敢えて心に押し殺し

いつしか内面に諦めとなって魂を蝕み、現実に立ち向かう生きるエネルギーが気づかぬまま失われていく可能性があると思う。

昔を思い出せば、私は平均年収1500万以上と言われる

企業(株式会社キーエンス)から内定後に脱走したり

どうしても叶えたい夢の為に

子供が生まれてすぐに学生に戻ったり

かなり無謀な選択をしてきた。

学生に戻ったころ、女友達からは

「私だったら、速攻離婚届出すわね」と言われたことを思い出す 笑 

新婚当時住んでいた新築マンションを引き払い、

古びたアパートに引っ越して

長男が初めて立ったのは

ハゲかけた畳の上だった。

だから妻には一生頭が上がりません。

何とかなると思っていたことが、

全く何ともならない。

そんな当たり前の現実すら当時は見えなかった。

幸運にも様々な縁に恵まれて幸せな今を過ごしているけれど

あ、このライン越えたら

ほんと戻ってこれないんだ。

と底が抜ける感覚に陥ったことは今も忘れることはない。

今の時代はあの頃よりそのラインが近くなっている気がする。

厳然と日本に拡がる格差の現実はもの凄いスピードで加速している。

それが今、目の前にある現実だ。

その現実を100%認めた時

初めてヒリヒリするような

本当の人生を生き始めることができると思う。

はたして2020年冒頭から

強烈に心に棲みついてしまったこの寄生から

私は放たれることはできるのだろうか。

いや目を背けることができても

きっと逃れることはできない。

ならば抱えながら生きていこう。

こんなにも根源的な生命力を高めてくれる映画は

3500本以上観てきて他に無かった。

ポン・ジュノ監督。

同時代にいてくれてありがとう。

なぜだろうか。

今、私は

とてつもなく人生に対する

希望と意欲に満ちている。