dita

風の電話のditaのレビュー・感想・評価

風の電話(2020年製作の映画)
4.0
@ MOVIXあまがさき   

不思議な映画だった。とても冷めた目で観ながら、ズタボロに泣いてしまった。映画の中で役を生きる人と、あの時に生きていた人の体験の差を圧倒的に感じながら、それでもどこかで繋がる瞬間は確実にあって、映画とわたしが繋がる瞬間が確実にあった。こういう撮り方をする監督さんなんだね。面白い。

生き残ってしまった者と死んでしまった者の間に何か理由があるのならば、人はこんなにも傷つかないのかもしれない。選ばれたわけではなく、たまたまそうだった。なぜ自分だったのか、の答えを探すことはとても難しい。悲しい、苦しい、そして悔しい。そう、わたしだけがこれからも生きていかなければならないことは、こんなにも悔しい。そのことばを聞いた時に、自身がずっと抱えてきた想いはこれだったのだと思った。

一方で、故郷に想いを馳せる、という感覚がわたしにはわからない。それはわたしには故郷があるからだと気づいた。ただいまと言えばおかえりと返してくれる人がいて、当たり前のようにそんな場所があることはこんなにも幸せだったのに、そんなことにも気づかずにずっと生きてきてしまった。たまたま生きているわたしは、たまたま生きているわたしの周りの人たちをもっと愛さなければならないことはわかっている。でもどうしてもそれができない。たまたま生きるのも、なかなか難しい。

たまたま生き残ってしまった悔しさを抱えて生きる彼女は何度もごめんなさいと言う。それでも生きていかなければならない彼女は何度もありがとうと言う。いつか、一日の中でごめんなさいよりありがとう、を言う回数が多くなる日が来れば、たまたま生き残った理由がわかるのかもしれない。

ご飯を食べ、生きて、死んで、誰かと風の電話で話をして、いつか忘れられて、それでもこの世界の片隅に少しだけぬくもりを残す。たまたま生きる意味、なんてそんなものなのかもしれない。
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