やすやす

風の電話のやすやすのレビュー・感想・評価

風の電話(2020年製作の映画)
4.2
風の電話とはいったいなんだろう?
「天国に繋がる唯一の電話」ってこの映画は
オカルト、ファンタジーなのかと当初思って
いた自分が本当に恥ずかしい。
この電話線が繋がらない風の電話は実際に岩
手の大槌町に設置されていて震災の遺族が数
多く訪れて心を癒している。

今作の主人公はある一人の少女。震災で両親
と弟を失い今は広島の叔母の家に身を寄せて
いたがその叔母が倒れたショックと不安から
衝動的に故郷の大槌に向かうことになる。
その旅路での人々との出会いで彼女は知らさ
れる。絶望に打ちひしがれているのは自分だ
けではないことを。そして暗闇の中でもがき
苦しみながら懸命に希望の光を探し出そうと
していることも。
神様に導かれる様に彼女がたどり着いた場所
は風の電話。家族に何を語りかけるのか…

天国に通じる電話であるなら仮に家族がまだ
行方不明で遺体が見つからなくてもそこに足
を運ぶことは自ら死を認めることになる。遺
族にとっては辛い選択でもあるかもしれない。
それでも届けたい思いがある。まだ元気だっ
た時には言えなかったこと。亡くなったから
こそ伝えたいこと。あるいは胸が詰まって何
も話せない人もいるだろう。

受話器に向かって少女が力を振り絞って話す
一言一言が胸に響き切なさで涙があふれ出し
て滝の様に流れ落ちた。
これは家族との対話であり自身との対話。そ
して決意表明でもある。17歳の少女は試練に
耐えてこれからも強く生きてゆく。
風の電話は彼女にとって旅路のゴールでもあ
り人生の再スタート場所でもある。喪失感や
心に抱えた傷は決して消えることはない。そ
れでも前を向いて歩むために背中をちょこん
と押したことは間違いないだろう。

深刻な悩みを人に打ち明けると気持ちが少し
楽になったりする。悲しみに暮れる人がそば
にいたら一人一人が風の電話となり話を聞き
思いを受け止める。そんな素敵な世界がもっ
ともっと広がって欲しいと願う。

人の弱さ、また強さをリアルに余すところな
く描き出した心に残る作品でした。
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