レオピン

罪の声のレオピンのレビュー・感想・評価

罪の声(2020年製作の映画)
3.3
あなたは いま 元気ですか 幸せですか

聡一郎の宇野祥平に感嘆。彼のたどった地を這うような半生。ボロボロの携帯と財布がそれを物語っていた。だが正直いって彼が出てくるまでは少しもの足りなさを感じていた。

ギンガ萬堂事件。モデルは1984年に起きた警察庁広域重要指定114号「グリコ・森永事件」

事件好きとしては、関連本は今も書棚に並んでいるしほぼ時系列で言えるぐらいは頭に入っている。事件を振り返るシーンは薄められた総集編程度で知らない事実はない。かといってよく再現したなというのもない。リアリティの作り込みは弱い。核心に迫っていく面白さもなく、事件の持つスペクタルは全部捨てられ記者の調査報道とテープに使われた子供の今が主題。要はベクトルが未解決事件の解明ということではない。あくまで小説。でもそこはw

事件のハイライトといえる焼肉大同門での受渡し。丸大の時の高槻京都間のキツネ目との接触。ハウス食品の時の名神高速での大捕物。これら映画的なところはみな再現フィルムなみ。あの高速のセットの低さはあまりにもショボい。原作の問題もあるから詮無い事だがもったいないなぁと。いい素材山ほどあるのになと思ってしまう。

調査報道にしたって30年以上たっているとはいえ、全部捜査報告書にあるはずだ。記者ならまず目を通すだろうに。一々、株の仕手とか産廃業者とかって事に今更気づくことがおかしい。
当時の記者のメモからヤマネの無線、車窃盗の男、そして料亭し乃の会合へとたどっていくがこれだと警察は何もしていないことになる。あんなに口の軽い板長がいてノーマークって。
警察かるたを料理やの2階で そんなバカな
株屋の情報源から吉高という一橋卒の天才仕手屋がいると。刈上げでピンとくるとかどんだけ業界は狭いんだ。
大抵の線は警察はしらみつぶしにしている。
ま、くり返すがこれらはみな原作の問題で脚本には関係ない。不満が多かったので映画の後で原作も読んでみた。やっぱり疑問の多くは映画のホンとはズレたところのものだった。

映画の評価はリアリティー演出が弱いことに尽きる。
テープと手帳が出てくる押入れ。名前のタグまでつけてあったが、そんな簡単に見つかる所に隠しておくかね。あと手帳が新しすぎる。 
架空のギンガ萬堂に変えているのは原作どおりだが、検索するところでGoogleをわざわざSoofleに変えていたり、あえてする意図が分からん。別に入れる必要ない。addidas のタオルや阪神パークのレオポンはそのままなのに? と細かいところが気になってしまう。
ミーティングの記者連中なんかモブ感丸出しでWOWOWドラマなんかに感じる安っぽさ。 

大津から事件の性質が変わったというのは、犯人グループ入れ替わり説がとられている。 
青木組というのは黒澤組がモデル。警察庁が最後の総決算で91年に行ったB作戦も結局何も出てこなかった。産廃業者も無駄。EL微物にこだわり続けても何も辿りつけなかった。混乱の元やった。

左翼説もない 暴力団もない 株価操作もない 警察もアホやない ついでにてっちゃんもない(たぶんあの車泥のモデル)。もうとっくに当たってるような情報を一線の記者たちが知らないはずがない。事件記者はそんなにヒマか

原作の達雄の独白では犯人グループは全部で9人。AグループとBグループに分かれていた。
経済ヤクザ、証券マン、車泥棒、キツネ目、過激派、元警察、産廃業者、電電公社、もう一人不明だったがたぶん国鉄関係者ではないか。エキスパートの混成チームだった。

結局この作品は諸説混合。犯罪スキームを組み立てたのは新左翼の男で動機は警察への社会への恨み。これには膝からがっくりきた。悪いけど宇崎竜童が告白するくだり鼻ほじって見てました。もう2時間超えてたし。学生運動家にラスボスの荷は重すぎる。これはギャグですか

やっぱり自分はグリコ原点説というのにどうしても惹かれる。テープにふきこまれた子供の声から迫っていくのは新しかったが、テープはテープでもグリコ本社に送られた53年テープだ。こっちの方が核心に迫れそうなんだが止まってしまう。社長が着せられたオーバーに込められた意味とは何だったのか。。というわけで高村薫の方が断然好みだ。

塩田本だと、
えせ同和をはじめ関西闇紳士たちのコネクション、また北朝鮮工作員説とかは外されていた。
ただ原作で面白かったのは、NHK取材班の番組「未解決事件」を取り入れ、阿久津の推理に自然につなげていたところ。簡単に言うと「キツネ目2人いた」説。ここがメタ構造になっていてこの2つの作品は同時に見られるべき。
本棚から取り出してみたら、確かにハウス事件の時滋賀の刑事が隠密に行動しており、ベンチの下に何か貼り付けている男をはっきり目撃していたとあった。写真まである。だが似顔絵はあの時点では大阪府警の中でも一部にしか共有されていなかった。なぜキツネ目だと?
この辺りの食い違いをフィクションにとり入れていくなどとても面白かった。

一応キツネ目は身長175cm以上で体格がいい。映画の男は小柄な男でパーマ頭もどちらかというとビデオの男に似ている。彼が主犯だとするジャーナリストもいるし、キツネ目などただの変人に過ぎないとする説もある。

結果1年半にも渡り世間を騒がした劇場型犯罪は迷宮入りに。警察は公安警察的な手法をとりすぎたせいで現場で犯人を取り押さえられなかった。本来なら職質一発で終わっていた。チャンスは2回もあった。現場の刑事たちの苦労ははかりしれない。

すべてピントはずれの文句ばかりになってしまったが映画は映画だ。最後はきちんと望と聡一郎の姉弟、お母さんに涙できるようになっています。脚本は悪くない。
あと一つ、あの小栗旬の襟なしコートはない。それとスーツ仕立てて満足気な顔で終わるが、犯人海外におったのだから時効停止でしょ。結果逃げられたことへの責任は、てまだ文句続くんかいw

新聞社をやめてまで書きたかったという著者の想いがこうして形になった。この作品もかつて日本中を騒がせた未解決事件のピースのひとつとなっていくのだろう。

⇒音楽:佐藤直紀
⇒エンディング Uru「振り子」

⇒グリコ・森永事件の脅迫電話
https://www.nicovideo.jp/watch/sm8356584
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