ちゅう

パブリック 図書館の奇跡のちゅうのレビュー・感想・評価

パブリック 図書館の奇跡(2018年製作の映画)
4.5
実を言うと子供の頃は図書館が苦手だった。

しーんとしていて、屹立する棚に阻まれて狭苦しくて、周りの大人たちは黙々と自分のことに集中している。
物言わぬ物体を開くとカビ臭くて、見たこともない漢字がびっしり詰まっている。
特に子供の気を引くようなアトラクションもない。

薄暗い館内は光溢れる外の世界とは隔絶していて、静けさからくる寂しさと未知の世界に対する不安が渾然一体となって押し寄せてくる場所だった。


図書館の使い方や本の選び方を教えてくれる人なんていなかったし、図書館を好んで使う友達や家族なんていなかった。
本に選ばれるような才能があれば別なのだけど、そんなものも当然なかった。
図書館は僕にとって"存在はしているけれど、自分とは関係のないもの"の一つだった。


幸運にも、本を読むようになって、本の価値がわかるようになってからは図書館の素晴らしさがわかるようになったけど、多くの人にとってはやはり"存在はしているけれど、自分とは関係のないもの"なんだろうと思う。
少なくとも、買って読みたいとまでは思わない本を貸してくれる場所ぐらいの認識だろうと思われる。


この映画は単に"本を貸してくれる場所"という認識を遥かに超えて、公共施設である図書館の意義を訴えてくる。
本と出会うことの素晴らしさをそこかしこにちりばめながら、公共とはなんなのか、人権とはなんなのか、正義とはなんなのかを訴えてくる。

人が人として生きるということはどういうことなのかと考えずにはいられないような、人の暖かみと生きていく上での切実な問題との間のジレンマに誠実に向き合っている。

素晴らしい映画だと思う。


極寒のシンシナティで自分の命を守るために閉館後の図書館を占拠したホームレスとそれに共感した図書館員の物語。


こういう話だといつも、"窮地にあったって法を破るのは絶対にいけない"のような優等生じみたことを言ったり、はたまた、"税金を払ってない者に公共サービスを受ける権利はない"のような金の亡者みたいなことを言って全てを封殺しようとする人が出てくる。

想像力が足りないのか生存バイアスにやられてしまったのかわからないけれど、そういう人はいつかそんな窮地に自分が立たされるかもしれないとは思わないらしい。
僕は宝くじに当たるよりかはずっと高い確率で窮地に立たされると思っている。
特に福祉の脆弱なこの日本では。

だから、そんなことを言っても締まるのは自分の首だけなのだということを僕は訴えたい。
その言説は倫理的に考えたらもちろんおかしいし、損得として考えても損であるということをわかってほしい。


困っている人を責めずにいられないぐらい視野の狭くなった人にこそ、この映画で描かれるミクロな存在としての人間を深く味わって欲しいと願っている。
ちゅう

ちゅう