佳作。ホンモノ。
吉本興業支配下のゴリの創った『洗骨』みたいなニセモノと、区別つきすぎる。こちらはスベるとこなく、いっぱい笑えてココロが温まる。
三話オムニバス。満月荘という民宿のオバア(沖縄ナンバーワン大女優の吉田妙子さん)とニーニー(チュラカーギ男子の尚玄さん)がレギュラーを務め、話同士のささやかな関連もあるから、何やら一貫した珍種の三色旗のひるがえりを眺めた後みたく充実感いっぱい。
クラウドファンディングメンバーからプロデューサー、スタッフ、キャストまでほとんどが沖縄人でロケ地も沖縄だから、何の嘘も交じらない、コンテンポラリーな沖縄普通映画。しかも面白い。
「ヤー、遅い。エー」(おまえ、遅い。おい)
「メーゴーサーしようね」(ゲンコツ喰らわすよ)
「アィッ」(あれっ)
「ハッサー」(おやまあ)
「~やし」(~でしょ)
「~ばー」(~わけ)
「上等、上等」(問題なしオッケーブラボー)
────そんなのが字幕もなしに出てくる出てくる。限度を超してはいない。さすがに、メーゴーサーだけは東京人のほとんどに意味通じなかっただろうけどね。
言葉や顔立ちや雰囲気とかの沖縄色だけの問題じゃない。映画として、ホンモノなの。
巧すぎないのもいい。じつは細部に気を配っていそうな小橋川さんのユルい撮影に、たぶん岸本監督は明確な指示を出していそう。人物二体ゴロンへの俯瞰ショットに三話共通で力を入れたところなんかで、それわかる。
ヤールー(ヤモリ)の鳴き声が頻々するのは、演出か。たまたまか。
ただし、沖縄ノワールへの指向性ふくめた実力を今後監督がどう自身の中でサイズアップしていくか。以下のチェックも是非監督はココロに刻むこと。
第1話 完璧。大団円らへんがちょっと長いのも、それはそれで個性。
第2話 「一億円」という額が荒唐無稽すぎて、1話ほどには笑えなかったが、楽しかった。「数百万円」ぐらいにチープ統一しておけばもっと観やすかった。巡査の軽さの微妙さも、一作限りならこれぐらいでいいが、今後ほかの作品で繰り返すべきじゃない。
第3話 前話までと同様、役者のパワーは大。という以上に、真打ちなぐらいに父(加藤雅也さん)と娘(池間夏海ちゃん)がハイスペックだった。しかし、私が絶対に受け入れないのは、終盤の執拗暴力描写。私は、知識あるからしょっちゅうこういうこと力説するんだけど、人が人の顔面を素手でグーで全力で殴ればどうなるかっていうことに、世の映画監督があまりにも無知すぎて、いつも暗澹とした気持ちになる。監督は、今すぐ「プロボクシング史上最も凄惨」といわれているビリー・コリンズJr.事件のことでも調べてみなよ。悪斗対世Ⅳ虎のプロレスも。
人が人を素手でグーで全力で殴りつづけるとどうなるか・・
❶ たった一発でも重大な負傷を与えることが多い。一発だけでも顔を無残に腫れ上がらせうる
❷ 殴った本人も、拳や手首を骨折する危険性が大きい
なぜボクシングでは必ずグローブを着けるか。素手で殴る悪者は永久追放される。それぐらいに、素手の顔面全力パンチっていうのは人間が人間にやっちゃいけない悪行の一つなんだよ。(張り手一発だって、翌日まで頬が腫れる場合がある。)
試しに、サンドバッグを三分間、素手で(バンテージもなしに)叩きつづけてみな。拳の複数箇所が擦りむけて血がかなり出るよ。自分自身を守るためにも、安易なパンチは慎みなさい。
残念ながら、暴力描写にかんしては、本作はニセモノのクォリティーだ。暴力の実相をまったくわかってないから。(第1話のパンチは全然いいよ。)