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ヒトラーを殺し、その後ビッグフットを殺した男のrollinのレビュー・感想・評価

5.0
きみに読むキャプテン・アメリカの物語


もうタイトルの時点で満点なんですけど、内容も大大大好物の個人的傑作でした。B級トンデモ映画という色眼鏡をかける前に、是非裸眼で確かめて欲しい作品。

「ヒトラーを殺した男」と、「ビッグフットを殺した男」。二つの異名の間に横たわる、如何ともしがたいリアリティの壁。この作品には、サム・エリオットという役者が醸し出す、グラン・トリノ的有終のロマンチズムと、コーエン兄弟的無常感、タランティーノ的肯定感をもって、全てのジャンル映画を祝福しているかのような温もりがあった。リアリティを超越する映画の何か。タイトルの出方も最高。

かつてヒトラーを殺した男が、何故今ビッグフットを殺しに行かねばならないのか?主人公の心情、キャラクター造形が丁寧で素晴らしい。一応今作もナメてたじいじが〜系統にあたる作品なんだろうけど、誰にも打ち明けられない武勇伝を抱え孤独に生きてきた彼の人生に手前勝手な浪漫を馳せてしまいました。
若き主人公を演じたエイダン・ターナーのそっくり具合も何か嬉しい。ヒトラーの暗殺に使用されたスキットル型サプレッサー装着のビザール拳銃も気になる。

のちにビッグフットと対峙することを暗示するかのような壁の絵と靴。愛犬と暮らす質素な暮らしと、疎遠になっていた弟との会話。過去にしか生きていない男。

敢えて馬鹿馬鹿しいほど着ぐるみなビッグフットで、老練イェーガーa.k.a.聖なる鹿殺しに立ち向かう愛嬌と作り手の分かりみの深さ。この世で一番浴びたくないゲロ。いるはずじゃなかった鹿。両者がカナダの森で対決する頃には、観客はこの映画の目的がそこにはないことを知っている。
主人公とビッグフット、そして(彼が殺した)ヒトラー。終盤、かつての恋人が語る教え子の日記のエピソードを通して、この三者は演繹的な繋がりを見せる。

様々なアイテムを通して、ことあるごとに己の人生を決定づけてしまったヒトラー殺しまでの日々を回想していた主人公が、終盤には人生で唯一愛した女性との思い出に立ち還っていくのは、ベタだけど感動的。しかもこれが物語の説明の順序としても効果的に機能していて地味に巧いと思いました。てかビッグフットからこのオチに繋げる勇気ってスゴくない??

VFXコンサルタントにはダグラス・トランブル、さらにスーパーバイザーには、ブレードランナーの伝説的マットペインター、マシュー・ユーリシッチの弟であり、数多くの名作SF映画で視覚効果を務めたリチャード・ユーリシッチがクレジットされてました!好きしかねぇわ。
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