Kuuta

はちどりのKuutaのレビュー・感想・評価

はちどり(2018年製作の映画)
4.2
頭がパンクしそうになる位よくできた映画だった。思いついたら加筆します。

2月に公開された「スウィング・キッズ」は、朝鮮戦争下で右にも左にも動けない若者が「その場で足を踏み鳴らす」ことでアイデンティティを手にするお話だった。鳥籠の中で飛び跳ねる今作のウニ(パク・ジフ)の姿にぴったりと重なった。

インターネットが普及する前の1994年に人を繋いでいたのは言葉であり、文学であり、音楽だった。繰り返されるドアの開閉、儒教的な上下関係の徹底した挨拶、手紙のやり取り、第3幕で起きる実際の事件。「断絶」した人の本心は分かりようもない。

些細なきっかけでコミュニケーションが途絶えた時、その真意を探ろうと他者を、世界を、目線を合わせて観察しなければならない。

親も他者だと知る思春期の終わり+家父長制度に抑圧された女性の解放。全体としては女性目線に偏らず、役割を与えられたことに苦しむ大人一般の話にまとめているのも上手い。

テーマや手法が近いと思ったのは、「レディバード」と是枝監督の「奇跡」。退院して家に戻った結果、窓から入る風に気づけるようになったり、ソファの下にあった破片を取り除けるようになったり。この描写はすごく「奇跡」っぽかった。圧巻のラストカットは、レディバードとも似ていた。

(息苦しくも大きな世界に圧倒されるエドワード・ヤン的な若者の姿。韓国映画特有の泥臭さは抑えられている。アンビエント風の音楽に、韓国も新世代だなあと勝手に感じていた)。

他者を見る余裕の無い人の視線は噛み合わない。カットバックやフォーカスのずれを使い、断絶したコミュニケーションが手際よく描かれる。木の幹や病院の点滴棒を固定した画面に取り込み、人物が「何かに囲まれた」鳥籠の構図が繰り返される。

塾のヨンジ先生(キム・セビョク)だけは、ウニの目を直接見て彼女の好きなものを聞いてくれる。先生という「役割」を降りて、「本心」で語りかける時、彼女はウニの隣に座る(公園と病院)。

病院でウニに掛ける言葉は感動的だが、この場面は2人の頭の後ろに鏡が置かれており、先生の一個人としての本心(休学して何をしていたのか)が初めて示唆される。涙腺が刺激されると同時に若干の不穏さを感じたが、これが後の展開につながる。

鏡で会話するのは母親も同様(化粧台の鏡、店先で会話するシーン)。彼女もまた、家族に見せない顔を持っている。だから、母親ではない心境の時は呼びかけに応じない。姉は「存在しない」クローゼットの中で息を潜めている。

先生と抱き合った時、葉っぱが揺れる音が聞こえる。植物は、飛び跳ねるウニと同様に上に向かって伸びようとする。塾のサボテンは好き勝手な方向に伸びているが、ウニの自宅では…。

人生の途中で立ち止まっているヨンジ先生の初登場シーンは「階段の踊り場で空を見ながらタバコを吸い、煙は上に登っている」。演出が決まりすぎていて笑ってしまった。

食べ物の演出も見事。ウニの手術が決まり、家族の気持ちが少しだけまとまるシーン。母親がウニのご飯の上にポンと肉を乗せたところで、何故か泣いてしまった。母親がドロドロのチヂミを焼き、チヂミは固まり、ウニはそれを頬張る。この場面も母の色んな思いが感じられて泣けたなあ。

断絶した他者に想像力を持つ大切さを学んでいるウニが、テレビの中の北朝鮮の人々を見るシーンが入っているのも素晴らしいと思った。レディバードにも、「役割に固執する米社会」に違和感を持つ主人公が、イラクに向かう米軍のニュースを見る場面があった。
邦画批判ではないのだけれど、「個人ー社会ー国家」を同一線上に並べて、青春映画の中でサラッと母国の歴史を相対化して見せる、こういう表現って日本の映画ではあんまり見ない気がする。84点。
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