みかんぼうや

レ・ミゼラブルのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.1
【憎しみが憎しみを生み、暴力が暴力を生み続ける花の都ではないパリ】

U-NEXT11月配信終了マラソン終盤の一作。
「フランス映画=ちょっと自己満的な小洒落た作品が多い」という自分のバイアス&苦手意識を一気に吹っ飛ばす高衝撃度&リアリティに溢れる骨太社会派映画。これは傑作!

本作の舞台は、“花の都”のイメージとは真逆と言っても過言ではないパリ郊外のモンフェルメイユ。あのミュージカル「レ・ミゼラブル」の舞台となったこの地は、今は移民系黒人を中心とした低所得者が生活するスラム化した犯罪多発地域。同じくスラムを題材とした先日視聴して大きな衝撃を受けた「シティ・オブ・ゴッド」を彷彿とさせる、熱量と狂気性、ヒリヒリとした緊張感が常に映画全体に漂い続ける。しかし状況は大きく異なる。「シティ・・・」はギャングVSギャングの抗争が中心となっているが、本作は警察VSスラムに住む黒人移民たちの構図が話の中心となる。

本作の核となるテーマは“憎しみは憎しみを生み、暴力は暴力を生む”ということだ。主人公ステファンが異動してきたこの地域を担当する警察は、住民たちに対して非常に威圧的で全てを力でねじ伏せんばかりの行動で取り締まりを行う。視聴し始めではその暴力的な行動にやや戸惑いを受けるも、この危険地域ではそれくらいの行動を行わないと住民にナメられてしまい治安を保てない、という考え故の行動だと話が進むにつれて理解する。しかし、この警察の圧力は、結果として市民への暴力に繋がり、その暴力がさらに大きな憎しみと暴力を生む、負と怒りのスパイラルへと突入していく・・・

2つのグループがお互いに心を許さず警戒することで、その壁は知らず知らずの間に少しずつ増幅し、それは憎悪として着実に蓄積され、しまいには一つのきっかけで大きく爆発してしまう。
「お互いの立場を理解し少しの歩み寄りができれば改善の余地があるのに・・・」と心の中で思いつつも、本作のドキュメンタリー調な生々しい映像は、そんな歩み寄りは“理想的な絵空事”でしかなく、現実はそんな簡単にはいかない、というシビアさを我々に突き付けてくるようだ。

本作でもう一つ印象的な要素としては、登場するスラムに住む市民たちは老若男女問わず、ほぼアフリカ系移民の黒人であること。一部の警官を除き白人はほぼ登場しない。これはフランスでの彼らの立場を象徴する衝撃的な事実だ。
そこで育ち生活する無邪気な子どもたちの姿には生きる活力を感じつつ、その活力が抑えられない衝動性となって悪行に繋がっている様子はまたも「シティ・オブ・ゴッド」を想起させるが、ここでも「フロリダ・プロジェクト」で感じた時と同様の“子どもは環境を選べない。子どもには罪はない”という思いが頭をよぎる。

そして、その考えが後に確信に変わる。

「悪い草も悪い人間もない。育てる物が悪いだけだ」

この言葉は、この子どもたちのことを伝える明喩であると同時に、私には、先に書いた警察官の力任せの威圧的で暴力的な行動もまた、この社会の中で育まれてしまったものなのだと思わずにはいられないのだ。

ラストは賛否両論分かれそうだが、個人的には素晴らしい終わり方だったと思う。エンドロール直前のラストシーン、敢えてこの終わり方にしたことで、本作は我々に問うているのだろう。この怒りと怒り、憎しみと憎しみの連鎖の中で、私たちは相手を信じ切り、寄り添い合い、お互いを理解し合うことができるのかということを。
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