なみき

レ・ミゼラブルのなみきのネタバレレビュー・内容・結末

レ・ミゼラブル(2019年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

初めは映画の向かい先もよくわからないままに、なんだか嫌な感じの警官たちのパトロールを延々と見続ける形で、少し打とうとしてしまったのですが、途中からどんどんと面白くなっていきます。ライオンの話が出てきてからはジェットコースターのよう。

それにしても私が気になったのは、なぜ監督はこのように撮ったのかということ。マイノリティの犯行の映画にするなら、普通に考えると黒人少年イッサの側を主人公にしたりするのではないかと思います。少なくともそちらの事情や心理をもっと描くのではないかと。しかし、基本的には白人の警察、しかも外の街からやってきたばかりの人物が中心になっている。

そのことを考えていて、ふとラストの言葉は、実はイッサ(だけ)でなく、主人公に(も)向けられたものだったのではないかと感じました。

一見すると礼儀正しく、同僚の横暴にも抗議し、イッサの治療もする主人公ですが、しかし治療はするものの病院に連れていくでも、何かフォローするでもなく、そのままにし、問題の映像を手に入れるときにも、思いのほかいかにも握り潰したい権力者側らしい発言をする。そして終盤の暴動ではとうとう自らがゴム銃をイッサに向けるまでになる。

あの映画のなかで、「悪い育み手」に育てられた存在がいたとしたら、もちろんそれはイッサでもあるかもしれないけれど、それ以上にあの環境であのように握り潰しに協力させられ、突如起きた暴動で少年たちと争うことになっていった主人公ではないのでしょうか。本来は悪いひとではなかったのであろうに、ああしてさべつこうぞうのなかで差別側へと育てられていく。

もしもそれを描こうとしたのだとしたら、あの映画をわざわざあの主人公で撮ったことの理由も与えられるように思いました。

そして、もしそのように理解してよいのなら、終盤で銃を下ろしかけているような主人公の仕草は、そこまで希望を匂わせるものではなく、むしろそれでもやはり銃を構え直す、もしくはそうでなくてもその後事態は改善していかないということを想像させるように、私には思えたのでした。
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