「私は、ダニエル・ブレイク」がとても良かったので、ケン・ローチ監督のこちらの作品も鑑賞。
前作よりもちょっと重たい感じでしたが、一貫して労働者階級を描くケン・ローチ監督の手腕が光っていた。
イギリス、ニューカッスルのターナー一家の主人リッキー(クリス・ヒッチェン)は、マイホーム購入の夢を叶えるために、フランチャイズの宅配ドライバーとして独立。妻のアビー(デビー・ハニーウッド)は、パートタイムの介護福祉士。毎日忙しく働く二人は、16歳の息子セブ(リス・ストーン)と12歳のライザ(ケイティ・プロクター)とのコミュニケーションも取れない毎日。
家族を幸せにするはずの仕事が家族との時間を奪っていき、子供達は寂しい想いを募らせ、家族の心が離れていく。
イギリスで増加している「ゼロ時間契約労働者」の厳しい現状、報われない独立業務請負人の過酷な労働環境を描いている。
請け負った仕事は、簡単には休めない。代わりを探さなければ賠償金が生じる。自営と言えば聞こえはいいが、ブラックな労働システムに家庭は崩壊寸前になり、不安だらけの暮らしが続く。
原題の「Sorry We Missed You」は、どういう意味なのだろうと思ったら、宅配で使う不在通知の冒頭に記載される定型文のこと。留守だったらまた出直さなくてはいけないのだ。邦題の「家族を想うとき」は、息子のセブが万引きで逮捕された時に警官が言った「君には仕事を放り出して駆けつけてくれるお父さんや想ってくれる家族がいるんだ」という言葉から取ったのではないかと思われる。
思春期の息子は生意気で勝手な行動ばかりで両親を困らせるが、心底父親を憎んでいる訳ではない。父親が仕事中怪我をして、あんなに反抗的だった息子が心配している。想い合っている家族の姿に、平凡な生活を送る難しさ、格差社会の悲しさを強く感じた。日本だって同じ。他人事ではない思いに辛くなる。
この作品は英国最大手の配送会社「DPD」で19年間働いていた53歳の配達員が、重い糖尿病を患い悪化していくなかでも、仕事を休めば賠償金を払わなければいけないため働き続け、遂に仕事中に倒れて亡くなったという実話を基に作られた。
決してたわごとではないというケン・ローチ監督の怒りの声が聞こえるような作品だった。