髭ゴリラ

家族を想うときの髭ゴリラのレビュー・感想・評価

家族を想うとき(2019年製作の映画)
3.5
ここに映る誰もが

どんなに憎たらしくとも

懸命に生きているだけなのだ。

それなのに...

どこまでも素直で純粋で不器用な4人の家族。

あまりにも過酷・冷酷な労働環境にも関わらず
「マイホーム」という夢を叶えるべく挑む父親。


家族を想っているからこそ...

家族を想っているが故に...

家族を想っているのに...

どうしても歯車が噛み合わない。


向き合おうとするからこそ

見えなくなること。

牙を向けてしまうこと。



理想と現実というのだろうか。

しかし、理想を求めてはいけないのか。

知恵があって 器用な人だけが

生きていける社会 理想を形に出来る社会

果たしてそれでいいのだろうか。


息子の度を超えた反抗期

少しずつ崩れていく娘の心

それぞれの「家族を想う」が故の行動を
夫婦はどう受け止めていくのか...

他映画にあるような
激しく揺さぶりをかけて泣くのではない。

彼らは静かに淡々と生活の中で泣くのだ。

終始ヒリヒリとさせられる映画だった。

目を背けたくなった。

何よりここは 私たちが思い描いていた
イギリスとは遠くかけ離れた現状だからだ。

私の知るイギリスは産業革命や古い歴史から
「労働」に対する改善の取り組みがある国で

サッチャー政権時の小さな政府〜ブレア政権など
早くから労使関係についても改善されていった国
今では福祉国家として生活保障に対しても
手厚い国なのだと、考えを止めていた。

どんな国にも必ず経済活動、需要と供給から
歪みが生まれていくのだと改めて考えさせられた。


ここまで起伏も、救いも無いのに
心を鷲掴みされるような映画は
なかなか出会えない。


ケンローチ監督

この労働者階級に
この生活者に目を向けて、捉えて

形にして発信出来る勇気と表現力に

感服致しました。

敬礼。
髭ゴリラ

髭ゴリラ